超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

それぞれの仕事

 中年男が夜中、一人オフィスで、残業をしている。仕事はまだまだ終わりそうにない。もうこんな夜が何日も続いている。中年男はため息をつき、給湯室でコーヒーを淹れようと立ち上がる。その時、オフィスの入口に白い人影を見つける。それはピエロである。後ろ手に何かを持っている。ピエロが中年男に笑いかける。中年男は会釈をする。ピエロは中年男にずかずかと近づいてきて、後ろ手に持っていた一個の赤い風船を手渡す。中年男が赤い風船を受け取ると、ピエロは彼の手を引いて窓際に連れていく。窓の外には夜の街が広がっている。ピエロは窓を開ける。夜風が中年男を誘う。赤い風船を持った中年男が窓の外へ踏み出すと、彼はふわりと宙に浮かび、夜空へ消えていく。そうして中年男がいなくなったオフィスで、ピエロが、中年男がやりかけていた仕事の続きに取り掛かる。