通勤電車でいつも同じ車両に乗ってくるおじさんは、禿げ頭の真ん中に、イヤホンジャックがある。そのおじさんは電車に乗ってくると必ず、周囲を見回し、耳にイヤホンやヘッドホンをつけている人を探す。そしてそういう人を見つけると、さりげなく傍に寄って、イヤホンジャックの存在をアピールする。しかし誰かがおじさんのイヤホンジャックにプラグを挿すところは見たことがなかった。おじさんはいつも悲しそうな顔をしていた。僕はある日の仕事帰り、家電量販店に立ち寄り、イヤホンを買った。明日の朝、おじさんに会ったら、これをあのイヤホンジャックに挿してみるのだ。翌朝、どきどきしながらイヤホンを装着し、電車に乗った。あのおじさんを探す。いた。しかし様子が変だ。おじさんはカツラをかぶっていた。