超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

着信

 昼下がり、テーブルを挟んで男女が座っている。テーブルの上には林檎が入った果物かごと、男女それぞれのスマホが載っている。男は文庫本を読み、女は爪の手入れをしている。するとそこへ、着信音が鳴る。男女は同時に顔を上げる。二人はそれぞれのスマホを手に取り、画面を見る。男は女を見て、首を横に振る。女は男を見て、首を横に振る。しかし、着信音は鳴り続けている。そして男女は同時に気づく。着信音は、果物かごの中の林檎から発せられている。女は怯えた目を男に向ける。男はかすかに震える手で林檎を持つ。着信音が大きくなる。女は男を見ている。男は女に向かってうなずく。そして男はゆっくり林檎をかじる。着信音が止む。男は林檎を噛み砕き、ごくりと飲み込む。誰。女が男に訊く。間違い電話だって。男が答える。