ある夏の日の午後、扇風機をつけて昼寝していた。ふいに何かの気配を感じて目を覚ました。恐る恐る顔を上げると、一台しかないはずの扇風機が、二台あった。よく見ると片方は、去年捨てた扇風機の亡霊だった。久しぶり。俺が話しかけると、扇風機はわずかに羽根を動かした。悪かったね捨ててしまって。扇風機は動かなかった。お前もずいぶん年だったろうだって俺が小学生の時に買ってそれから十年以上使ってたものなあ。扇風機はわずかに首を前に傾けた。何か未練があるのかい。扇風機は激しく羽根を動かし始めた。亡霊だから風は来なかったが、その回転を見ているうちにピンとひらめいた。こいつの未練。俺は扇風機の亡霊の前に座り、回転する羽根に向かって、あー、と声を出した。扇風機の亡霊の姿が、だんだん薄くなっていった。