超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

匂い

いつも美味しそうな匂いが漂っている火葬場の前に、今日、たくさんのパトカーが停まっていた。

時刻表

その無人駅の時刻表には、「死ねば来る」とだけ書かれている。

すする

さすがプロの落語家。同じすする音でも、蕎麦すするのと腸すするのとじゃ全然違うんだねぇ。

おやすみなさい

夜、二階の私の部屋の窓に、こつん、と小石が当たる音。カーテンを開けて外を見ると、窓の下の地面に、無数の蛇の死骸で形作られた「おやすみなさい」の文字と、昼間のあの少年が。

優先席

電車の優先席で、でっかい卵を抱えた女の人が静かに眠っていた。

広告

何だか最近、PCやスマホに葬儀屋の広告がやけに表示されるなぁ、そんなこと調べてないのに、と不思議に思っていた矢先、妻が突然死ぬ。

機械点検

機械点検の為、明日の天気、「なし」。

午後七時

「女子小学生の涙で育てました」とラベルの貼られた一輪の赤い花を、サラリーマン風の男がそっと買っていく午後七時。

頼み

なあ、実は、お前が俺んち来るたびに、仏壇の姉ちゃんの遺影が、頬を赤くするんだ。お前さえよければなんだけど、付き合ってやってくれないか?

医師である父は、手術の執刀日だけ、朝のテレビの占いコーナーを観る。

今度こそ

息子に百匹目のハムスターを買い与えた。今度こそ命の大切さに気付くといいけど……。

背筋

月を見ると背筋が伸びるのは、日本の兎だけです。

生首

夕食のおかずが生首だった日の夜中、水を飲みに台所に行くと、禿げ頭の父が、三角コーナーの中の生首の髪の毛を、自分の頭にのせているのを見た。悲しくなった。

薬指

妻になる女の指に結婚指輪をはめた瞬間、その薬指がみるみる痩せ細り、ミイラのようになって崩れ落ちる。

鉛筆

その小説家が愛用している鉛筆には、無数の注射痕が残されている。

産婦人科

明日は妻と産婦人科に行く。また悪い子になってしまったので、初期化するのだ。

クローバー

世界で最後の一本になった四つ葉のクローバーが、周辺の地面に染み込んだ人間たちの血を静かに吸い上げている。

神様ー、明日降らせる雪の味見お願いしまーす。

山火事

山火事かと思ったらそれは巨大な灸だった。その年、村は豊作だった。

間に合ってない

まだ間に合ってないらしい。鏡を見ると、人型に切った段ボール板に私の名前が書かれたものが映っている。

男、7年、サッカー、わがまま、説明書なし、耐12年、¥50,000~。

風邪

太陽の風邪が長引いています。明日もお出かけの際は日傘を忘れずに。

「こちら様々な犬種を楽しめるワンちゃんになっておりまして……」と店員が連れてきた犬の耳の切り取り線。

アドバイス

「虹の赤い部分を舐めるとしゃっくり止まりますよ」と、背中に翼の生えた後輩にアドバイスされる。

うちの畑から盗まれたらしい苺が、地蔵の前に供えられていた。

停電の暗闇の中、夕方、車で猫を轢いた母の眼だけがぴかぴか光っている。

風呂

誰かが風呂を覗いている。思い切って窓を開けたら、窓枠におじいちゃんの遺影が置かれている。

仕事の関係

「仕事の関係でな、悪いんだけど、これからは生ゴミを多めに出してくれ」母にそう頼む父の名刺入れから、カラスの黒い羽根が一枚、はみ出ている。

菜箸

太陽に菜箸が刺さっていた。食べ頃なのかもしれない。

白いパーカーにはねたカレーうどんの汁の跡が、星座早見盤とぴったり一致。