夕暮れの列車に乗っていた。向かいの席に女が座っていた。女は胸に、ガラス細工の赤ん坊を抱いていた。ガラス細工の赤ん坊に夕日が反射して、俺の目を射るのでちかちかする。よく磨かれているようだった。ガラス細工の赤ん坊は、女の腕の中で、うんともすんともいわなかった。空調の風が当たるたび、埃が舞い落ちるらしく、女はいちいち柔らかい布を取り出して優しく磨いていた。やがて列車は田舎の無人駅で止まった。女とガラス細工の赤ん坊だけがその駅でおりた。駅のそばには渓流と高い橋があったことを思い出した。列車が再び発車するとき、橋の方へ目をこらしたら、女がガラス細工の赤ん坊を川へ投げ捨てているのを見た。ガラス細工の赤ん坊がいなくなったので、俺の目はちかちかしなくなった。列車は夕暮れの中を走り続けていた。