夏、入道雲を組み立てるためのクレーンの脚に、蝉の抜け殻がくっついている。
人事部が飼っている蝿が胸にとまった社員が、会社をくびになった。
下水道点検の際に発見された、下水道の内壁に書かれていた数式を、誰も解くことができない。
0点のテスト用紙を握りしめてとぼとぼ歩く少年の背後から、脳味噌の形のオブジェを載せた神輿が近づいてくる。
三角コーナーの中で興った文明で、生ゴミの日の前日に、神が誕生した。
通販で買った高級な指で、最初に触れるのは、ピアノか犬か、どちらにしよう。
たこ焼き屋の親爺が悪夢から目を覚ますと、自分の両手がかつお節まみれであることに気づいた。
野菜の無人販売所に、「美人無料」との貼り紙があり、その下に鏡が置かれている。
全ての星が光を失った夜空の下で、街灯にインタビューする。
また人が月をミサイルで壊してしまったので、神様は鼻をかんで丸めたティッシュを夜空に放った。
その老夫婦は毎月一回産婦人科を訪れて、天体望遠鏡を覗いて我が子の成長を確かめている。
午後の電車に乗っている老夫婦の妻が、白目をむく夫のおでこの穴に挿したイヤホンで何かを聴いていたが、ふいにイヤホンを取り、夫に「ロマンチストね」と笑いかけた。
夜、冷蔵庫の中で行われている卵たちの舞踏会の、静かな物音を聞きながら、眠る。
宇宙から帰ってきた夫は、家じゅうの時計の針を一分進めた。
最後の人間の剥製を作っているロボットが、中に詰める綿の感触をしばらく楽しんでいる。
雷売りのおじさんが軽トラの運転席で居眠りしていたが、そのいびきが売り物の雷よりうるさくて笑ってしまった。
夜中、粗大ゴミ置き場から聞こえてくるやかんの寝言を聞いていたら、カップラーメンが食べたくなってきた。
私がこのコタツで蜜柑の白い筋を剥き始めて、そろそろ千年が過ぎようとしている。
彼の血を吸ったことを称えられ、彼の家族たちの拍手喝采を浴びた蚊は、結局その拍手に巻き込まれて潰れて死んだ。
その宇宙人は、地球のお土産に、殺虫剤を一つ持って、星に帰った。
くしゃみしたら鼻の穴からアゲハチョウが飛び出したので、何かとんでもない噂話をされているようだ。
母の墓石に埋め込まれているパチンコ台で、友人の葬式の香典にしようとしていた金をすってしまい、母のことがますます嫌いになる。
紙幣の肖像にナメクジが描かれている小国に、ある夜大量の塩が運び込まれる。
彼らの脳味噌はつるつるなので、クレーンゲームのアームがなかなか引っかからなくてもどかしい。
古本屋に置かれている空気清浄機のフィルターに詩がびっしり張り付いている。
月が久しぶりに失恋したというので、今夜は町じゅうの人々が電気を消してカーテンを開けている。
哺乳瓶を兼ねているロケットがその星へ飛ばされるのも、今日で最後だ。
「ただいま皆さんの影のデータを集めております……」というアナウンスとともに、夕日が沈んでいく。
夕日というものを見てみたいと願った子どもたちのために、大人たちは各々電子レンジを抱えて、地平線へと旅立った。
「これもあげるよ」と言って、金魚すくいの屋台のおじさんは、自身の腕からうろこを一枚剥がして、僕にくれた。