一人きりで迎えた誕生日に、コンビニでケーキを買い、死んだ兄を真似して苺を先に食べようとしたら、いつの間にか目の前に兄の幽霊がいて、私を見てゆっくり首を横に振る。

「？」の形に隊列を組んで西の地平線の向こうへ消えていった鳥の群れが、数日後、「！」の形に隊列を組んで、戻ってくる。

ある夏の日、私の家のエアコンの室外機の上に、整然と蝿の死骸が並べられていて、どうやらこれを使って誰かが誰かに算数を教えたらしいことがわかる。

春の熱から逃げ続けて、ある病院の遺体安置室にたどり着いた雪だるまは、そこで自分を作った少年の遺体を見つけた。

禿頭にびっしりと相合傘の落書きをされているおじさんが、下校する中学生の集団を眺めながら、微笑している。

隣の家に引っ越してきた品のいい老夫婦が、「引っ越しのご挨拶に」と持ってきてくれた箱を開けると、中に精神安定剤がぎっしり詰まっている。

王女が吹いたシャボン玉に導かれ、民衆は荒野を進んでいく。

真夜中の交番で、おろし金で大根をすり続けるおばさんに、警官たちが拳銃を突き付けている。

母が新聞に何かペンで書き込んでいるので、そっと覗くと、幼児誘拐事件の記事の、誘拐された子どもの名前を、私の名前に書き換えている。

古書店の本の山の一番上にあった昆虫図鑑を手に取ったら、表紙に積もった埃の真ん中に、埃が無い部分があって、それが蝶の形をしている。

その村に落下した隕石には、百年前にその村で自殺した彫刻家のサインが彫られていた。

そのニキビは絶対に潰すなよ、と、放課後、夕暮れの教室の窓の外から、宇宙服を着たその男は私に身振りで伝えてきた。

仕事帰り、タクシーに乗ってうとうとしていると運転手が急ブレーキをかけたので、何事かと飛び起きたら、運転手が「ママが死んじゃう」と言って夜空を指さすので、見ると、満月が燃えている。

試着室から出たら、店中のマネキン人形の首がなくなっていた。

ひと際長くて太い鼻毛を抜いたら、その日から自動ドアが反応しなくなった。

義父に連れられて初めて入った高級寿司店で、背びれやえらの有無をチェックされた。

公衆便所の個室で紙がないことに気づき、隣の個室に「すみませんが紙はありませんか」と尋ねたら、上から千羽鶴が降ってきた。

父親の仕事道具である聴診器を色々な物に当てて楽しそうに遊んでいた友人が、私の胸に聴診器を当てた瞬間、急に黙り込む。

夫婦の思い出の森へと向かう車内で、方向指示器のカチカチ音に合わせて、妻がダッシュボードの上で踊っている。

裏路地に立っている「夏禁止」の標識の向こうで、麦わら帽子をかぶった少年が息絶えている。

魚の図鑑を眺めていた息子を殴った容疑で、魚屋の親爺が逮捕された。

満員電車で目の前に座っているおばさんが、耳を切り取る器具を持っていたのを見て、音楽プレーヤーとイヤホンを取り出し、「私は耳を使います」というアピールをする。

亡くなった祖母が遺したぬか床の中から、拳銃が出てきて、祖父と喧嘩するたびにぬか床をかき混ぜていた祖母の姿をふいに思い出す。

赤い液体が入った哺乳瓶を握りしめた女が、夜の交番を覗き込んでいる。

明日の詩ゴミの日に出すゴミ袋から漂ってくる詩の腐臭を嗅ぎながら、履歴書を書く。

殺虫剤の商品名に「爆笑！」と冠されている。

友人の家の箪笥に足の小指をぶつけた日から、その箪笥にずっとストーキングされている。

道でいきなり「肩に毛虫ついてますよ」と、満面の笑みで私に話しかけてきたおばさんの肩で毛虫が潰れている。

今日も息子がズボンの両ポケットをUFOでパンパンにして、夕空から帰ってくる。

泣きながらレストランを飛び出した給仕の男が、やっと泣き止んで、水差しの水を、明け方の海に注いでいる。