超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

背中

母の葬儀の最中、ずっと泣いていた姉が急に泣き止んだかと思ったら、喪服の背中が裂けて、大きな蝶の羽が現れた。

骨壺

全人類の骨を詰めた骨壺を抱え、巨人は太陽の向こうへ去っていった。

よく混ぜられた猿液は、この機械でついに猿になります。

雪だるま

これが百万年雪が降り続けている町の雪だるまだよ。

金魚の墓

アイスの棒で作った金魚の墓が一本、月の裏側にたてられていた。

先に

当店では、恋人より先に食肉加工場に送られた牛の肉と、恋人が先に食肉加工場に送られた牛の肉がございますが、どちらになさいますか?

お墓

はは……すいません、この国のお墓は食べられないんです……。

ぬいぐるみ

娘が遊んだ後のぬいぐるみが、娘が寝た後、私の部屋に入ってきて、睡眠導入剤を数粒掴み洗面所へ歩いていく。

海の匂い

海の匂いが近づくにつれ、道端に増えていく、尾びれのついた地蔵たちを、父の運転する車の後部座席からぼんやり眺めつつ、腿に生えてきたうろこを指でいじっている。

かつて王子の尻尾を切り落とした斧を、王になった彼の首を刎ねる剣に鍛えなおす。

のどあめ

かみさまに、「のどあめかってきて」って、いわれた。にんげんに、なにか、だいじなこと、つげるんだな。

砂糖

君が作ったその砂糖が、蟻の世界をぶっ壊したんだよ。

古新聞

そのホームレスは古新聞を拾うたび、交番にペンを借りに行く。これから何度も読み返すその新聞の、悲しいことが書かれている部分を塗り潰すのだ。

背中

背中が痒いので妻に掻いてもらっている時、妻が先日死んだことを思い出す。「どうしたの?」「何でもない」

太陽

結局太陽は地球の葬式に来なかった。

夜の公園のベンチ、ぼくの顔を見た彼女がふふっと小さく笑って言う。「あなた、右目だけ、月が二つ映ってるわよ」

ボトルシップ

密封していたはずのボトルシップの甲板の上で、どこから入ったのか、蝿が一匹、仰向けに倒れており、弱々しい声で、蝿の国の国歌を歌っている。

墓石に水をかけるのは、墓石から染み出てくる黒い水を洗い流すためではないと、結婚してから知る。

火葬場の便所の鏡に、手の形に、煤がついている。

生えてくる

腿の内側に、毛に混じって時々、「その他の危険」の標識が生えてくるが、硬くて痛いので抜くと、その夜は必ず嫌な夢を見る。

君はいいよな

君はいいよな。神様が金がある時に作った人間だから。

病院の廊下の長椅子に、一匹の蝿が腰かけて、雑誌を読みながら、私の祖父が死ぬのを待っている。

契約書

契約書にハンコを捺した瞬間、約束の雨が静かに降り出し、私は傘屋の男の子へ会いに行く準備を始める。

私たちを捨てた母が月に植えた花が、夜空から匂ってくるのを、病死した妹の死体と手をつなぎながら、嗅いでいる。

三日月

夜中、開けていた窓から、三日月が私の布団に入ってきて、私の体をまさぐっているうちに、先端の尖ったところでシーツを破いた。

くす玉

姉の遺骨を入れたくす玉を、母に割ってもらい、パーティーが盛大に始まる。

カタツムリの殻をかみ砕く音を頼りに、停電した家で母を探す。

奥歯

私の口の中のある一本の奥歯は、肉を食うたび削れて、徐々に仏像の形になっていってる。

信号待ち

信号待ちの時、片手に生首を提げている人の横に立った女子高生が、生首をちらりと見て、スカートを押さえた。

ぼくの家で飼ってる蝉のところへ、今日、慰問の歌手が来て、夏の歌を歌っていった。