超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

のれん

火葬場の入り口に「ゆ」ののれん。

仕事

理科の教師として赴任したその学校には、一日一回、理科準備室の人体模型の臓器を、霧吹きで湿らせるという仕事があった。

電池

電池でしゃべるぬいぐるみの電池を抜こうとした瞬間、ぬいぐるみが「マジかよ」とつぶやいた。

テレビの天気予報。明日、私の町の地図の上に「骨」の次。母がつと立ち上がって、どこかに電話をかける。「夫のは、降りますか?」受話器から向こうの声。「お名前を教えてください」母は電話を切る。そして自分の椅子に座って、しくしく泣く。「骨」の日は…

ドリンクバー

そのレストランでドリンクバーに行くと、それぞれの容器に「A」「B」「O」「AB」と書かれたシールが。

点検

マンションのエレベーターに「点検中」の貼り紙が貼られている時は必ず、マンション中に線香の匂いが立ちこめている。

背中を丸めてテレビを観る息子の周りに、一匹、また一匹と、蝿が集まっていく。あの子、また「死にたい」って考えてるんだ。

笑顔

夜の繁華街に、酔っ払ったサラリーマンの一団がおり、その中からおっさんが出てきて、道端にゲロを吐いた。汚ねぇなぁと思いながらちらりと目をやると、そのゲロの中に「死ね」という文字がいっぱい浮いていた。おっさんは笑顔で一団の中に戻り、やがて見え…

動物園

最近評判の動物園に行ったら、それぞれの動物の檻の前に、高評価ボタンと低評価ボタンが設置されていた。

何度目をこすっても、鏡に映っているのは一本の卒塔婆だけ。

砂浜に佇む少女、その足下に波が寄せる。波が去った後、そこにはノートが一冊。少女はそのノートを拾い上げ、嬉しそうに砂浜を後にする。ぼんやりその様子を見ていた私に、少女は振り返り、はにかんで言う。「交換日記です」

私が幼い頃、私が悪いことをすると母は、「反省なさい」と言って、離れの家の一部屋に私を閉じ込めた。その部屋にはボロボロの鳥がいて、「コウナルゾ、コウナルゾ」と喋り続けるのであった。

生ゴミ

我が家から出た生ゴミを食い荒らしたカラスが、次の日我が家の軒下で首を吊って死んでいた。

メッセージ

悩んで悩んで悩んで、悩んでやっとあの人に、「好きです」というメッセージを送ることができたのは、地球滅亡の日の夕方だった。

喫茶店で休んでいる時、後ろの席から「いっつもお前の方に煙が来るよな」という声が聞こえてきたので、バーベキューの話かと思ってたら、火葬場の話だった。

メリーゴーラウンド

遊園地に行った。メリーゴーラウンドに乗り、降りると、係員がやってきて、さっきまで私が乗っていた馬の目を拭きだした。そんなに重かったのか。

更地

「神様売ります」の貼り紙が貼られていた神社が取り壊され、更地になっていた。

最後に新郎新婦力を合わせて腹を引き裂き出てくる「鯨中婚」も、最近ではすっかり見なくなりましたね。

遺書

地球外生命体について研究していた叔父が自殺した。遺書には「お先に」とだけ書かれていた。

剃刀

風呂場、義姉が使っているT字剃刀に、カラスの羽が挟まっている。

真似

最近、「神様の真似ぇ!」と叫びながら、走る車に飛び込んでいく小学生が後を絶たないそうだ。

におい

失踪した父のにおいを覚えた警察犬が、母の腹を嗅いでいる。

丸い石をめくると下から見たこともない虫が現れ、興奮しながら捕まえて、家に帰り、夕飯を食べて落ち着き、虫を眺めているうちに、興奮からさめてみると、さっきめくったのが石ではなく生首だったのではないかという気がしてくる。

矢印

悲しいことがあるたびに、左腕の内側に、矢印の形のみみず腫れが浮き出てきて、昔リストカットした時の痕を指し示す。

年賀状

年賀状が届いた。今年は眼年だから、どの年賀状にも目玉が描かれている。並べると、たくさんの眼がこちらを見て少し怖い。来年は血年だ。本物を塗る人がいるんだろうな。

母が夕飯をテーブルに並べると電話がかかってくる。出ると知らない男。「いただきます」それだけ言って電話は切れる。何十年も前から続く現象だ。ぼけた祖父は声の主を見たことがあると言っている。それを見たから祖父はぼけたのかもしれないと叔父は言う。