超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ちゅうい

その瞬間、目の端に映ったのは、「にせにんげん に ちゅうい」の看板の赤い文字。

××旅館の「脳湯」。湯の底に沈められた脳の色が美しい。湯に浸かると、思春期のことを思い出すというから、脳湯の脳はその年頃の子どものものではないかと言われている。

父親

テレビを点けたら、殺人事件のニュースが報じられていた。父親が娘を殺したらしい。テロップで表示された娘の名前は、読みも漢字も、私と全く同じだった。そのままニュースを観ていると、マンションの一室から手錠を掛けられて出てくる父親が映った。私が昔…

Re:

Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:神様を

ミカン

「何だこのミカン、全然甘くないな」「お父さん、それ、故障中のやつだから」「先に言え。ドライバーとペンチ、どこにあったかな」「やめときなよ。後で業者に頼んで修理してもらうから。前みたいに、下手にいじってお腹壊しても知らないよ」「ふん」

視聴率

最近のテレビは視聴率の取れそうな、動物番組、クイズ番組、死刑の中継ばっかりでつまらない。

妻の買い物に付き合ってブティックに行った。妻は真っ赤なドレスを見て、「放火する時にこういうの着たいなぁ」と言った。女の人って、やっぱりそういうところにこだわるのかなぁ。

喪中葉書

今年もあの家から喪中葉書が届いた。これで十三年連続だ。大変だとは思うが、だからこその呪いだからなぁ。

その首吊り死体の胃からは、栄養ドリンクが検出された。

おい、あそこ。死んだお袋の顔した雲が浮かんでるぞ。雨も降ってきたし、何か言いてぇんじゃねぇかなぁ。

地球

地獄と提携した火力発電所です。皆さん、地球のために、どんどん悪いことして堕ちてくださいね。

うちの犬は新聞を与えると、人が死んだことが書かれてある記事を、いつまでもいつまでもくんくん嗅ぎ続ける。

祖父の作業着に、鱗粉が輝き始めた。「春が近ぇからな」祖父は笑って、掌の中から一匹の蝶を空に放つ。

看板

自殺者が多い崖の傍に立てられた、「命を粗末にするな」という看板に、いつの間にかひらがなでふりがながふられていた。

お父さん

自分がお父さんだった頃のことを、独房で思い出していた。

ハンバーグ

「これ、息子が好きだった、私の手作りハンバーグです……」母親が弁当箱を開ける。美味しそうなハンバーグがある。漁師たちは神妙な顔で頷き、ハンバーグをちぎり、釣り針の先に付けていく。

雨の夜

雨の夜、神社からコーンコンと音がする。石段をのぼり、音の方に目をこらす。そこには、木に藁人形を打ち付けるおばさんと、おばさんに、自分が濡れるのも構わず、傘を差しかけてやっているおじさんがいる。二人は時々顔を見合わせて笑う。おじさんはおばさ…

背中の羽根って、ボディーソープで洗ってる?シャンプーで洗ってる?

何でも

道端に、「何でも産みます」と書かれた看板と、一人のおばさん。おばさんの後ろには、写真が何枚も飾られていて、そこには子犬やミニカー、火の玉のようなものを手にした産婆さんが写っている。

「あの動物園も出禁になりましたなぁ」と嬉しそうに電話で話す夫の手に握られた、「猿に自殺を教える会」の会報誌。

でしょーか

「何を埋めてるでしょーか?」「赤ちゃん」「誰の赤ちゃんでしょーか?」「私の赤ちゃん」「ぶっぶー。あなたのじゃありませーん」「良かったー」

中学高校と犬道部に所属していました、損はさせません、飼ってください、わん!

全部

それから三日後、「全部焼けましたよ」と、火葬場から電話が。

生物

図書館で××図鑑を読んでいたら、ある生物の挿図の横に、「最後の個体の自殺により絶滅」という説明文が。

UFO

夕暮れの空に、UFOを見た日は、必ず夫が、寝室のカーテンを開けて私を抱く。

赤い文字

息子のおちんちんに誰かが書いた「要返却」の赤い文字が、何度こすっても消えない。

アザ

母に殴られて出来るアザは、必ず胎児の形をしている。

夏に死ぬから、青い棺桶がいいなぁ、私。

レバー

おじいちゃんの葬儀中、おばあちゃんの介護の人が、おばあちゃんの両こめかみから突き出たレバーをぐるぐる回し始めた直後、おばあちゃんの両目からぽろぽろ涙が溢れてきた。

親指

深夜、バイトの帰り道、「事故多発 注意」の看板の陰で何かが動いたので、ふとそちらに目をやると、そこに供えられた花やお菓子の類に、親指くらいの大きさの人たちがびっしりたかっていて、くちゃくちゃとそれをむさぼり食っている。