超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

赤と青

 ある休日の午後、昔の恋人がベビーカーを押しながら、突然我が家を訪ねてきた。
「何?」
「今、時間ある?」
「あるけど」
「よかった。私、ないんだ」
 そう言って彼女はベビーカーのひさしを外した。そこには、時限爆弾がくくりつけられていた。
「どっちがいい?」
 青と赤のコードを指でつまみ上げ、彼女は俺に訊いた。残り時間は20秒を示していた。
「青」
 彼女は弾けるような笑顔で「よかった。そう言ってくれると思ったんだ」と答え、「でも、どっちもハズレ」とつぶやき、青と赤のコードを両方切った。
 照れくさそうにはにかむ彼女を見つめる俺の視界の隅で、残り時間が0秒を示した。