超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

歯が抜けて笑う子

肉屋の店先に、お婆さんがいて、ショーケースの中の肉に、話しかけていた。「モー……モー……」お婆さんはニコニコ笑いながら、そうつぶやいていた。お婆さんの目の前には、牛肉が置かれていた。お婆さんは、牛肉に耳を近づけた。そして、満足そうに何度も頷くと、隣の肉に話しかけ始めた。「ブー……ブー……」お婆さんの目の前には豚肉が置かれていた。お婆さんは豚肉の声も聴いた。お婆さんは隣の肉に話しかけようとした。だが、そこでお婆さんの動きが止まった。困った表情を浮かべている。お婆さんの目の前には、合い挽き肉が置かれていた。「モ……ブ……モ……」お婆さんはおろおろした挙句、突然、泣き始めた。その壮烈な泣き声は、トリの鳴き声に似ていた。俺はお婆さんに近づき、手を取り、立ち上がらせ、鶏肉の前に導いた。