超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

バッティングセンター

それぞれの寺の坊さんたちが寝静まる深夜、バッティングセンターに、九体の仏像が集まってくる。

親指

祖父の葬式の最中、ぼくの前で正座している叔父さんの靴下に穴が開いていて、その穴から突き出た足の親指に、油性マジックで笑顔が描きこまれているのに気づく。

その星の干上がった海の底には、「海」と題された一冊の本が落ちている。

冗談

「肉が柔らかくなる」と信じて、その肉屋は毎日、売り物の肉たちに向かって冗談を言い続けている。

赤い物

夜道、地蔵の口元についていた赤い物を舐めるとケチャップで、何だ、ケチャップかよ、と思う。

風のない暑い夏の夜、元テレビマンの父が病室の窓を開け、「風」と書いたカンペを天に見せていた。

文具店の雲用ボンドの棚を見て、今年も夏が来ることを実感する。

ぼくを誘拐したおじさんも詩を書いていた。

輝き

今朝も、地平線から東の空へ、でっかい「?」が光り輝きながら昇ってくる。

雨粒

雨の夜、差しているビニール傘をふと見ると、一滴の雨粒が、傘の斜面を下から上へ登っている。

レントゲン写真

レントゲン写真なのに海辺の町が写っている。

医者

暗い顔のてるてる坊主の胸に聴診器を当て、「ま、晴れるでしょう」と医者は言った。

クイズ番組

深夜にひっそりと放送されていたクイズ番組で、自分の寿命を知る。

自販機

首吊り縄の自販機がいつも売り切れで、もしかしたら補充されていないのかもしれない、と思いながら生き続けている。

ずっと晴れているのに傘立てに水が溜まっていて、何だろう、と思っていたが、よく調べるとどうやら昨夜傘が泣いたらしい。

図書館の種が何か病気にかかっていたらしく、実った図書館にはあらゆる本の上巻しか置かれていなかった。

洗月機を兎の集団に破壊される。

魚たち

海の魚たちが、鯨が作った宗教に傾倒し始めて、ぼくらの食卓は、ずいぶん変わってしまった。

リモコン

ふと気づくと、家じゅうのリモコンというリモコンの先が、ぼくの方を向いている。

スイッチ

両親が亡くなった時、同じ坊さんに経をあげてもらったが、父の時は坊さんの後頭部の何かのスイッチが「弱」で、母の時は「強」だった。

久しぶりに取り出した将棋セットから、真っ二つに割れた王将の駒が出てきて、歩の駒が一枚足りない。

「私たちはもう嫌になりました」という文字が電光掲示板を流れていって、駅のホームにいつまでも電車が来ない。

契約

ほら、俺、生まれる時、「死に放題」に契約したから。

墓石

今日は天気がいいので、全部の墓石の背面のファスナーが開いていて、墓地には何もいない。

ウェディングドレス

ここへ来る途中、ウェディングドレスが、三日月の端に引っかかって破れてしまって、少し、恥ずかしいです。

廃品回収

妻とドライブ中、前を走る廃品回収の軽トラの荷台に積まれたギロチン台を見て、妻が「ちょっとあんた首切られてきなさいよ」と冗談を言う。

母さん

寂しい夜、折り畳み母さんを開こうとするが、涙でくっついてしまっている。

ポテトチップス

ポテトチップスの工場から、じゃがいもをのせた車椅子を押しながら、綺麗な女が出てくる。

前世で同じ海鮮丼の具だった男から、金を借りる。

ため息

夜中、一人で残業中、赤い色のため息が出た。