超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-02-05から1日間の記事一覧

幸せ

冬になると、妻が、ある文庫本のページとページの間に、あかぎれの薬を塗り始める。冬になると、その文庫本は必ず、決まったページの間に、血が滲んでいるのだという。「主人公が幸せになる場面なのにね」冬になると、妻は、そう言って少し寂しそうに笑う。

速報

ニュース番組の途中、「えー、ここで速報が入ってきました……」と、ニュース原稿を受け取ったアナウンサーが、その原稿をじっと見つめたまま動かなくなり、やがて鼻の穴から血がどろりと垂れてきて、「しばらくお待ちください」の画面に。

その虫は古い人形の頭しか食べない。首のない人形が増えていくのは不気味だ。