超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

幸せ

 冬になると、妻が、ある文庫本のページとページの間に、あかぎれの薬を塗り始める。冬になると、その文庫本は必ず、決まったページの間に、血が滲んでいるのだという。「主人公が幸せになる場面なのにね」冬になると、妻は、そう言って少し寂しそうに笑う。