(朝のリビング。家族四人分の朝食が用意されたテーブル。)
(一つの椅子には制服を着た少年が腰かけており、残りの三辺には細長いプラスチックの板が立てかけられている。)
(それぞれの板の隅には油性マジックで小さく、“父”“母”“妹”とメモ書きされている。)
(少年は何も言わずテレビを点け、朝食を食べはじめる。テレビでは朝の情報番組が一家心中のニュースを流している。少年の目の前の朝食が、少年の胃の中へ黙々と流し込まれる。)
(テレビの騒がしい音の隙間を埋めるように、少年の箸の音が時折聞こえてくる。プラスチック板の前の朝食は、ただただ寂しい湯気を立てている。)
(ふいにリビングの電話が鳴る。少年は立ち上がり、テーブルに背を向けて受話器を取る。)
もしもし。
おはようございます。
はい。
まあ、元気でやってます。
はい。
はい。
はい?
はあ。
交換ですか。
(がちゃん、と物凄い物音が少年の背後で響く。)
(少年が振り返ると、“妹”と書かれたプラスチック板の足元で、ご飯茶碗が粉々に砕けている。)
……いや、結構です。
(少年は受話器を置き、茶碗を片付けはじめる。)
(テーブルの上の朝食は、家族全員分、綺麗に平らげられている。)