超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

妻と苺

 十七で死んだ息子が天国にいると信じている妻は、今日も息子の姿を空に探すため、脚立を抱えてマンションの屋上へ足を運ぶ。
 飛行機に乗ったらもっとよく探せるんじゃないの、と言ってみたことがあるが、妻は、それだと声が届かないから、と答えて優しく微笑んだ。
 僕は妻の好きな苺を洗い、ガラスの皿に盛り付けてリビングのテーブルに置いておく。
 そして気が済んだ妻が戻ってくるまでの間ゆっくりと、マンションの隣の空き地をスコップで掘りながら、地獄に落ちたはずのあいつの姿を探すのだ。