超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

指とカメラ

 部屋で寝ていたら、部屋の隅で火が燃えていた。

 火の周りには、小さな人々がいて、何やらがやがややっている。背丈より大きなカメラを抱えているのがいたり、さむらいのような恰好をしているのがいたり、どうやら映画か何かを撮っているらしい。

 そのうち監督らしいのが私を見て、何か指示を出したかと思うと、すぐに下っ端らしき連中が、私の手を布団から引っ張り出して、指を一本、切り落としてしまった。切り落とされた指は、セットの一部として使われるらしく、部屋の隅で燃え盛る火の中に、塔のように立てて置かれた。

 やがてカチンコが高い音で鳴り、肉の焦げるにおいとともに燃えていく私の指の前で、さむらいのような恰好をした小さな人々が、合戦の真似事を始めた。矢が飛び交い、刀の折れる音がして、馬のいななきが響いたその瞬間、炭のかたまりになった私の指が、火の粉を撒き散らしながらついに崩れ落ちた。

 一瞬の静寂ののち、監督らしいのが大声を張り上げ、小さな人々はわっと湧いた。これでクランクアップのようだ。小さな人々が、抱き合ったり拍手したりして騒いでいる。

 その歓声を聞きながら、火が消され、もうもうと立ち込める煙の向こうに、原型をとどめていない指を見ているうち、自然と涙が溢れてきた。やがて彼らが機材を引き上げ、撤収していく中で、一番新人らしいのが、私の指の切り取られた断面に、深々と頭を下げて去っていったが、私の心は晴れなかった。