超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

弾けた象と甘い星

 夜空から星を盗んでしまった。丸くて柔らかい星だった。姉に見せた。それは甘い星だと言われた。

 姉が紅茶を淹れてくれた。星が一つ消えた夜空を見ながら、手の中の星をかじった。確かに甘い味がした。目をこらすと、星の上で寝ていた、象のような生き物が、驚いて私を見ているのに気がついた。

 紅茶をすすってもう一口、星をかじった。象のような生き物は、追い詰められて私を見ていた。

 紅茶をすすってもう一口、星をかじった。象のような生き物は、逃げ場を失って私を見ていた。長い鼻はすっかり縮こまっていた。

 紅茶をすすって最後の一口、星をかじった。星を失った象のような生き物は、部屋の中にぷかりと浮かんで、すぐにぱちんと弾けてしまった。

 私は紅茶を飲み干して、象が弾けた辺りのにおいを嗅いだ。少しだけ土のにおいだった。