二人で決めたアパートには、部屋の真ん中に巨大な蛇が横たわっていた。死んでいるのか生きているのか、蛇はぴくりとも動かない。触るとひんやりしていて、抱きつくと何だか落ち着く。どちらからともなく、夜は蛇を抱き枕のように抱いて眠るようになった。恋人と私の腕の跡が蛇の柔らかい体にくっきりと残り、少し不憫にも見えた。しかし、体重をかけすぎたのかやがて蛇は萎み、蛇のいた跡は川になった。蛇が消えてから恋人との会話はめっきり減った。もう限界かもしれないと思っていたある晩、川から霧が立ち上り、その向こうに恋人の姿が溶けて消えていった。やがて霧が晴れると、窓の向こうで、赤い舌がちろちろと月を舐めているのが見えた。