超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

雨宿り

 昔、妹と二人で遠い街に買い物に出かけ、その帰りににわか雨に降られた。

 二人で病院の軒下で雨宿りしている時、急に水のにおいが濃くなって、鼻の奥がつんとした。

 その後雨が小降りになってきたので駅に戻ろうとすると、妹が駅とは全然逆の方向にすたすたと歩き始めた。

 びっくりして呼び止めたが、妹は意に介さず、知らないはずの道をずんずん進んでいく。

 放っておくわけにもいかないので慌てて追いかけるのだが、どういうわけか妹にちっとも追いつけない。

 ふと彼女の足元の水たまりに目をやると、水面に映る妹の隣に、しっかりと寄り添う私の姿が映っていた。

 水たまりの中の私はきちんと傘を差していた。

 水たまりの中の妹の背中が笑ったように見えた。

 それを眺めているうちに、自然と足が止まり、疲れがどっと出てきた。

 やがて雨がやみ日が照り始め、ふたりの姿は知らない道の向こうに消えてしまった。

 仕方がないのではじめに雨宿りした病院の軒下まで戻り、こうして何十年も次の雨を待っている。