超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

指の数

自宅を出てすぐそこにある横断歩道にずっと落ちている手袋の指の数が、日に日に増えていく。

ビー玉

精神安定剤の瓶の中身が全てビー玉になっていて、振り返ると、ドアの隙間から娘が私をじっと見つめている。

忘れ物

公衆便所の個室に、首吊り縄の忘れ物があったので、何となく手にとり、ほどいていたら、突然、個室に鋭いノックの音が響く。

元妻

残業中にかかってきた元妻からの電話を無視して仕事を続け、夜遅く帰宅すると、玄関のドアのノブに、金魚が二匹入ったビニール袋が吊り下げられていた。

朝、右の靴下の親指部分に穴が開いていて、そこから親指が出ているのを見てから、仕事に行き、帰宅して再び足を見ると、靴下の穴は塞がっており、親指が無くなっている。

夫が寝言で「夏に捨てたね」と言ったが、冷蔵庫のことなのか息子のことなのかわからない。

マッサージチェア

銭湯に設置されていたマッサージチェアに座り、手元を見ると、十二個のボタンがあり、その一つ一つに十二支の動物が描かれていたので、試しに龍のボタンを押した瞬間、体中の骨を粉々に砕かれた。

葉擦れ

庭の木の葉擦れの音を聞き、あの世の妹に「どうしたの、ため息なんかついて」とメールを送る。

ごとん

こんな夜中に、近所にある地蔵の自販機の方から、ごとん、と鈍い音が聞こえてくる。

古着屋

あの古着屋は××年代の服を中心に扱っているから、ほとんどの服に腕が三本ある。

ジョーク

墓荒らしをするたびに記念に死体の目玉を持ち帰っている相棒が、眼鏡屋の紙袋にその目玉を保管しているのを見るたび、何か気の利いたジョークが浮かびそうで、浮かばない。

痒い所

床屋の父が、あの客の「痒い所」を掻きに旅立って、三年が経った。

寝癖

母の夢が見られればと、母の遺影を枕の下に敷いて寝た次の朝、頭に、まるで鬼のツノのような寝癖が出来ている。

VIPルーム

クラブのボックス席で、酒を飲みながら「死にたい」とつぶやいた俺を、「そんなこと軽々しく言うもんじゃない」と諭した友人の背後を、首吊り縄を持ったバニーガールが通り過ぎ、VIPルームへと消えていった。

魔法

「このお弁当は魔法による温めには対応しておりません」と書かれた弁当を持って、魔女は再び町に現れた。

年末

年末のスーパーマーケットで、身寄りの無い老婆がお年玉袋を万引きして捕まった。

終バス

一人で乗っている終バスが、大きく曲がり揺れるたび、目の前の座席の下から人形の首が転がり出てきて、またバスが揺れて、座席の下へ戻っていく。

石像

公園の、鳩糞まみれの石像の口の周りに、鳩の血がついている。

「祝・全国大会出場」と書かれた横断幕が、火葬場にかけられている。

親指

親指をしゃぶる癖が治らない幼い息子に、そのことを注意したら、息子は私をきっと睨んで、「親指だけでも天国に行かせてやりたいんだ」と言って、再びしゃぶり始めた。

コレクション

父は死の前日、長年集めてきた新聞のお悔やみ欄のコレクションを、庭で焼いていた。

雨が降る町を、首吊り縄を握りしめたおじさんが、「雨天中止……雨天中止……」とつぶやきながら歩いている。

おにぎり

夜中にふと訪れたコンビニで、「全生物」とラベルに書かれたおにぎりを見つける。

トンボ

お地蔵様の頭にとまっていたトンボを捕まえようと手を伸ばした瞬間、まだどこにも触れていないのに、トンボの首がころりともげ落ちた。

検索

このカラオケ店の検索端末は、アーティストの前世で検索できるので、鳴く虫だったアーティストを探してみる。

私が産む星では戦争ばかり起きてるのに、あの子が産む星はいつも平和なの、と第百次性徴を迎えた娘が悩んでいる。

苦笑

彼の胸に聴診器を当てると、中から野球部の練習の音が聞こえてきて、思わず彼を見ると、彼は「弱小っすわ」と言って苦笑した。

私が灰にした実家の、灰になった仏間で、灰になった母が、灰になった精神安定剤を飲もうとしているが、手も薬も喉も、風に吹かれてぼろぼろと崩れていく。

ノート

友人が誰もいないクラスメートがいつも持ち歩いている、表紙に「ともだち」と書かれたノートから、蛆虫がぽろぽろ落ちてくる。

ラジカセ

自転車を漕いでいるおじさんとすれ違った瞬間、その自転車のかごの中に入っているラジカセから、僕の笑い声が流れていることに気づく。