超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

赤ちゃん

「赤ちゃんのいる家を調べ、鍵を壊して侵入し、その家の赤ちゃんに無理矢理、自分の母乳を飲ませてしまいました」と、中年の女が警察署に自首しに来た。

プリン

冷蔵庫に入っていた、家族みんなの分のプリンを一人で全部食ってから、兄は首を吊って死んだ。

化粧

その心霊写真が話題になってから、その幽霊は化粧を覚えた。

実家

燃え盛る実家を見ながら、「お母さんに通知表を見せたくなかっただけなんだけどなぁ」とぼんやり泣いている。

故障

マンションのエレベーターに、ある日貼り紙。「故障中 ※地獄まで止まりません」指先が、なぜか少しうずいた。

私や夫が、死んだ息子の話を始めると、必ず飼い犬が寄ってきて、「撫でれば?」と言いたげな顔でお腹を見せてくる。

ほっと

お母さんがお父さんと離婚することになったので、ぼくは、雑草や虫や絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜて作ったオリジナルの「毒薬」を、ほっとしながらトイレに流した。

昼間道端で見つけてスマホで撮った蛇の死骸の写真が、その後何度スマホを確認しても消えているので、夜中にもう一度撮りに行こうと玄関で靴を履いたところでやっと、「あれ?何でそんなことしなきゃいけないんだ?」と気づく。

命日

明日はお祖父ちゃんの命日だから、きっと晴れるよ。

ポスト

すごく綺麗なお姉さんがポストに手紙を入れた瞬間、ポストがしゃっくりをし始めた。どんな手紙だったのだろう。

花火

夏の夜、身重の妻と近所を散歩していたら、墓地の前を通りかかった時、妻が「あ、花火」と言うので空を見上げると、「違う違う」妻が指さす方を見ると、明らかに子どもの物と思われる小さな墓の前に、花火セットが供えられていた。

病室

医者が病室に来るまでのわずかな間、美大生の姉が、今しがた亡くなった祖母の顔をスマホで急いで撮っていた。

木製の私が料理をするときのために、義母がガスコンロを撤去し、IH調理器に替えてくれた。鉄製なのに、優しい人だ。

鳥居

神社の鳥居の前に、蛾や蝿、トカゲの死骸がパラパラと落ちている。「この人たちはね、悪いことをしたから、鳥居を通れないんですよ」死骸を掃きながら、宮司はそう言った。

口内炎

舌に口内炎が出来て痛がっていたら、父親に「好きな娘の写真でも舐めてたのか?」と笑いながら言われたが、意味がわからない。

医者に余命宣告されて家に帰ってきたら、子猫が生まれてた。

修学旅行

修学旅行の最終日の夜、ホテルの窓からふと駐車場を見ると、去年、私の家に放火しようとしていたところを逮捕されたおじさんがいて、目が合った。

好きな子

夕飯時何気なく、小学生の息子に「好きな子とかいないの?」と訊いたところ、息子は「んー、いるけどもうすぐ死んじゃうかもー」と答えた。「え?」私が固まっていると、その会話を傍で聞いていた私の母が、「じゃあ早く、他の子を好きになれるといいね」と…

医者

文字医者の××先生。午前中は妊娠中の「回」の診察を終え、午後は事故で「臼」になってしまった「白」の縫合手術です。

一万円札

新しい父が私の前に一万円札を置いて、「これでお父さんと呼んでくれ」と言う。

叔父さんの葬儀に際して、兄に「色々大変だろうから兄貴の分の香典も俺が出すよ」と言ったら、兄は「刑務作業でもらったお金があるからいい」と答え、ああ、この人変わったなぁ、と思う。

採譜

毎日、隣家から聞こえてくる怒鳴り声と、叩く音と、子どもの泣き叫ぶ声を採譜していたが、両親が逮捕されてしまったので、結局その曲は完成しなかった。

限る

嫌なことがあった日は、地球儀を燃やすに限るね。

鉄棒

鉄棒に干されているホームレスのカツラを眺めている雨上がり、外回りの途中の公園。

ゴミ袋

今日もあの家から出たゴミ袋を開けて中を漁っていると、くしゃくしゃに丸められた紙片が。広げてみると女の人の字で「赤ちゃんが欲しい」と書かれてあった。あの奥さんだろうか。思わずポケットに入れて持ち帰った。眠れなかった。

弔辞

事故死した大学の友人の葬儀の時、彼女の母親が読み上げた弔辞で、彼女が高校時代不登校だったことを知る。

卵焼き

明日は、博物館が、お母さんのいない子どもたちのために、お母さんの剥製を、ガラスケースから出す日です。お母さんの剥製に、抱きつく子が出て、きっと叱られるでしょう。お母さんの剥製は、卵焼きの匂いがするそうです。

骨、全部流してきた。今日から、便所が、親父の墓だからな。

私たちの船を、波をきらめかせながら、野生の木魚の群が追いかけてくる。もうすぐこの船で人死にが出るらしい。

丸々と肥った国語教師に、「旨そうな字を書くな」と注意される。