超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

温もり

「はい、じゃあ、次はあなた」母から手渡された首吊り縄は、内側に父の温もりがまだかすかに残っていた。

理由

その夫婦になかなか子どもが出来ない理由は、父親の精子と母親の卵子についているスポンサーがライバル会社同士であるからだった。

目玉

また人体模型の目玉が何者かに盗まれたが、「大丈夫大丈夫」理科の先生はそう言って、目玉の詰まったバケツをつま先で軽く蹴った。

申請書

「神様に出す申請書を2部コピーしておいてもらえるかな?」「お、双子ですか」「うん、双子」

体質

お経を聞くと下痢をしてしまう体質なので、法事に出られない。お腹の中に何がいるのかな。殺人や自殺のニュースを見るとお腹が鳴るのと関係があるのかもしれない。

風景(音)

機械の住職の胸から聞こえる、お経のテープを巻き戻す音が、静かに響く寺。

夜空

夜空を見上げる。夜空に注射器が、一、二……三本刺さっている。明日の夜には、星が三つ増えていることだろう。どうせすぐに消えてしまうのだろうけど。

「そろそろ朝です……」鶏小屋を覗いてそう声をかけると、暗がりで座禅を組んで目をつぶっていた一羽の鶏が、「コッコ……」とつぶやき、ゆっくり立ち上がった。

コンティニュー画面

瀕死の患者の心電図に、コンティニュー画面が表示された。まだいける、早く、早く、百円、百円。

放課後

今日の放課後、×組で飼っていた妖精の火葬を理科室で行います。時間のある人はぜひ来てください。お菓子も少し出ます。

祖父(仮)の遺体(仮)は火葬場(仮)に運ばれ、仮に焼かれた後、骨(仮)が骨壺(仮)に納められ、先祖(仮)と同じ墓(仮)に仮に入ることになった。

このたびは

このたびはお買い上げありがとうございます。ご入金を確認いたしましたので、お客様のご注文が確定されましたことをお知らせいたします。なお、商品の発送日につきましては、出産予定日に基づいた目安であり、実際の出産日によって前後する場合があります。…

渋滞

渋滞の端から端まで霊柩車。

肉塊

水道を詰まらせる肉塊、バスタブに沈んでいる肉塊、天井から生えてくる肉塊、仏壇を開けたらある肉塊!それ、全部解決!おうちの肉塊のことなら、当社にお任せ!

しぬ

「しぬー?」「しぬしぬ」女児と老婆の声が聞こえてきた。声のする方に目をやると、一体の人形が軒下で首を吊られていた。「これしんだら、おかーさん、かえってくるー?」「くるくる」

娘をベビーカーに乗せてデパートを歩いていた時、婦人服売場のマネキン人形の前を通り過ぎた瞬間、背後からごとり、と音がしたので振り向くと、マネキンの首が落ちていた。ベビーカーの中を覗こうとしたのだと直感した。

読経

叔父の葬儀に出席したら、一番泣いていた叔父の妻が、坊主の読経が始まると同時に足元から燃え出した。

実は星も、絹ごしと木綿に分かれます。流れ星になりやすいのは、絹ごしです。つるんとしているからでしょう。

少女

少女を誘拐する。少女は人と蝶とのハーフである。私は少女の為に花の蜜を集めて瓶に詰め、「食え」と差し出す。「何もわかってないのね」少女は薄ら笑いを浮かべる。少女は窓辺の造花に口づけ、無知な私を静かに責める。私と少女は同じ布団で寝る。朝、シー…

道端に座る汚いおじさんの傍らに、手製の看板が置かれている。「芸します お手・おかわり 十円/待て 三十円/ちんちん 要相談」。

ぞろぞろ

今まさに彼を焼こうとしている火葬場に、チアリーディング姿の女の子たちがぞろぞろ入っていく。

床屋

床屋に入っていった「U」が、「し」になって出てきた。

対応

商品名:無線コントローラー(西暦××××年以降に生まれた乳児に対応)

ツッコミ

ツッコミが「何とか言えや!」とどつくたびに、ボケの死体にびっしりたかっている蝿が一斉に飛び立ち、観客がわっと湧く。

蝉を管理しているサーバーがダウンした。夏だなぁ。

着せかえ人形

ガラクタ市で古い着せかえ人形を見つけた。服のバリエーションの中に喪服があった。「誰かが死んだ日も遊べるヨ!」箱にはそんな文字が印刷されていた。

腹に爆弾を巻いた少年が、通りを歩いている。少年が引きずる長い長い長い導火線の先端には、火が点いている。男が少年とすれ違う。「火を貰うよ」男は言う。少年は頷く。男は導火線の先端の火を煙草に移し、少年を見送る。あの爆弾がこの街では爆発しないこ…

日記

嘘を書く日記の中で、どんどん幸せになっていく私。

ナッツ

頭の部分がナッツで出来ている手作りの人形を、ハムスターの前に差し出して、ハムスターがナッツをかじる様子を見ながら彼女は、「私もこうやって死ぬの」と言った。

庭の、蟻の巣の近くに、もひとつちっちゃな穴が開いていて、夜になると緑色の光がほんのり漏れている。たぶん非常口なんだろうと思う。こないだ買った殺虫剤を見られたのかな。