超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ハンカチ

その巨人は巨大なハンカチに、人間たちが使っていたギロチン台をそっと包んで、地平線の向こうへ消えていった。

太陽

はぁ、日射病ですか……あの、ですが、太陽のことは夫に任せてあるので、私では……はぁ、出かけております……夏は色々と忙しいようで……。

ノート

リハビリ用にと手渡されたノートに、一文字一文字、丁寧に、ゆっくりと、「女」という文字を書いていく。今日は四つが限界だった。

占い師

何か、最近、占い師の自殺、多いっスね。

昨日の夜

あれ?おい、××。昨日の夜、先生とクラスの皆で、お前を、山に埋めただろう。ダメだろ、来ちゃ。

看板

近所の空き地の「立ち入り禁止」の看板に、「妊婦絶対立入禁止」「妊婦ダメ」「妊婦入るな」などと、無数の手書きの文字が。

美しい夜

地球のあくびが、月にうつって、今夜は、美しい夜となった。

高いテレビ

高いテレビには理由がある。このテレビは、画面に映るタレントがアップになるたび、その鼻の穴や口から、虫の脚みたいなものがはみ出して蠢いているのがはっきり見える。

道案内

モンシロチョウに道案内を頼んだら母の所へ導かれ、アゲハチョウに道案内を頼んだら父の所へ導かれました。でも本当は、あなたの所へ行きたい。私は今日も花畑に立っています。

ポン

夕暮れの道を、「ポンってしないでぇ」と泣きながら歩くおじさんの脳天に刺さっている、コルク抜き。

「!」の形をした雲が、誰もいなくなった地上を見下ろしながら、ゆっくり空を流れていく。

家を改築した時に、縁の下から出てきた猫の頭蓋骨。額に、赤い油性マジックで「見本」。

実家が火事になったと妹から電話があり、急いで駆け付けると、無傷の実家の前に妹がぼーっと立っていて、「大丈夫?」と問いかけた瞬間、妹は「お姉ちゃんの勝ち」とつぶやいて、立ったまま足元から灰になっていった。

浮標

母が味噌汁を作った鍋の中に浮標が浮かんでいて、その浮標から向こうへはお玉を入れてはいけない。

おばあちゃんと散歩中、おばあちゃんが風を嗅いで、「どっかで女を焼いてるねぇ」と言った。「どんな女?」「女に惚れていた女だねぇ」

祖父を火葬した後の台車の中に、水滴状の謎の骨が一つ混じっていて、その尖った先端が、どんなに風に置いても、必ず私を指す。

手品師

盲目の手品師が微笑んでゆっくり広げた母の遺書を見ると、私の名前が綺麗に消えている。

「海を見せないでください」との注意書きがされた人形を買う。女の人形だ。抱いて寝る。海の夢を見てしまった。申し訳なく思う。

肉屋に

隣で寝ている夫が寝言で「肉屋に行こうよ、肉屋に行こうよ」とずっと言っているので、変な寝言、と思いながら夫の顔を見ると、起きていて、私をじっと見つめている。

細い脚

車を運転中、車窓にちらっと映った、「いいなぁ」と思ったあの細い脚が、家に帰り、風呂場の電気を点けたら浴槽に浮いていた。

もぐらたたき

ゲームセンターのもぐらたたきの筐体の傍らに、線香と花が供えられていた。

空き容器

カップラーメンの空き容器に一欠片だけもらってくることができた、腹違いの兄の骨。

宿題

まだ生きていることになっている息子に届けられた宿題を、解く。算数は得意だったんだっけ、苦手だったんだっけ、あの子。

履歴書

あの会社は履歴書に書かれた住所が「地球」で始まっている人間は有無を言わさず落とすらしい。

遅刻

「遅刻しちゃう、遅刻しちゃう」とつぶやきながら妹は、ロープに首をくくり、足元の台を蹴った。

救助

燃え盛る自宅を呆然と眺めながら、腕の中では、昨日友だちに借りたエロ本をしっかり抱きしめている。

母と父

母が亡くなり、父の女装に妊婦の要素が加わりはじめた。

ピー

お腹を押すとピーと鳴るクマの形の玩具のへこんだお腹が、たった今息を引き取った祖父の手の中でゆっっっくり膨らんでいく。

ピアノ

婚約者が弾くピアノの音が地獄まで響いてくる。