超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-01-01から1年間の記事一覧

着ぐるみ

遊園地に行ったら、マスコットキャラクターの着ぐるみが近づいてきて、「ボクハコノ着グルミニ、少シズツ食ベラレテイルンダヨ」と囁いてきた。

今日からうちの畑に来るはずだった案山子が、始発列車に飛び込んで、駅に藁のにおいをまき散らしたそうだ。

袈裟

少年は病室の窓から、空を飛ぶ袈裟を見たが、彼はその時まだ「袈裟」という物を知らなかった。

寒い冬のある日、空から突き出した巨大な手が、火葬場に掌をかざして、暖をとっていた。

タッパーウェア

蓋にマジックで「中指」と書かれた空のタッパーウェアが、ゴミ捨て場にぽつんと置かれている。

おみくじ

しくしく泣きながら神社の石段を下りてくる女の子のスカートの中から、おみくじが次々と落ちてきて、拾い上げてみると、それらが全部「大吉」。

ちょっと変

誘拐犯のおじさんがぼくに折ってくれた紙飛行機の形がちょっと変。

珍しく

今日は珍しく娘が「死にたい」って言わないなぁ、と思っていたら、家で飼っている金魚が全部死んでいた。

赤い糸

男子便所の個室の便器の中から、隣の女子便所の個室の便器の中へ、赤い糸が繋がっている。

女王蜂

女王蜂が心療内科を受診している間に、その蜂の巣は業者によって駆除された。

雪だるま

冬の夜、道端の雪だるまに向かって、指輪を差し出し、「結婚してください」とひざまずいたおじさんが、しばらくしていきなり、「あーっ!」と叫んで立ち上がり、雪だるまを蹴り壊して、そのままどこかへ走り去った。

アリジゴク

アリジゴクってのがいるでしょう。あの「アリ」が「妊婦」にかわったようなもんですね。

放送休止

真夜中、テレビを点けると、画面に、「放送休止」の文字とともに一本の首吊り縄が映っている。

これも

その女はうちの店で一番高い幼児用玩具と、「あと、これも」幼児用絞首台を買っていった。

遊び

産婦人科に勤めていた頃、赤ちゃんが生まれてくる時、助産婦や看護師、医師で、せーので、その赤ちゃんに値段をつける遊びをしていた。だいたい値段は揃わないんだけど、一度だけ全員が「八百円」と言った赤ちゃんがいた。あの子は元気だろうか。

電車内、女の生首を膝に載せていた女が、ある駅に着いた瞬間、「降りまーす」と言って立ち上がり、生首だけを駅のホームに投げて、また元の席に戻った。

下の子

「あっちが、下の子」老婆はそう言って、月を指さした。

ビデオ

学校紹介のビデオだが、飼育小屋にモザイクがかけられている。

指酒の瓶の中の指は、夜に見ると必ず月を指しているのが不思議だ。

始まり

「私たちの始まりは、お坊さんの禿げ頭の上で、寿命を迎えた一匹の蝿でした」と、彼女はつぶやき、静かに羽を動かした。

窓辺に開きっぱなしにして置いていた本を久しぶりに見たら、地球からやってきたと思われるロケットの残骸が一篇の詩の上に散らばっていた。

飛行機に乗っている時、窓の外が不思議な色の雲に包まれた瞬間、CAが「お客様の中に詩人はいらっしゃいませんか?」とアナウンスする。

手品師

誰もいなくなった劇場の舞台の上で一人の手品師が、泣きながら自らの指を食べている。

ここ一年この町では、毎週火曜日の昼三時に、天気に関わらず、虹が出ている。

良い子

良い子は影が甘いんだよ、と言ってそのおじさんは、私の前で地面に這いつくばった。

将棋

夜の墓場で、巨人になった坊さんと狸が、墓石を駒にして将棋を指している。父が眠っている墓石は、桂馬になった。

番組

タレントがひたすら蛾を殺すだけのあの番組やってねぇなぁ、と父が、病院のテレビのチャンネルを替えながらつぶやく。

大工

親友同士の大工の二人が、同じ日に、お互いの建てた家に火をつける。

擬態

その地方に生息するある蝶は、羽根に目玉のような模様がついている。擬態するためのものだと思われるが、なぜかその「目玉」は三つある。

スケッチ

背中に赤ん坊を背負って、公園の池をスケッチしていた女が首をひねり、背中の赤ん坊を池に投げ込んで、再びスケッチを始める。