2021-01-01から1年間の記事一覧
「ねたみ」の袋に、「軽く炙ってお召し上がりください」と。
「プレゼント用のラッピングをしていただけますか?」遺骨を骨壺に納めたところで、遺族にそう頼まれる。
知らないおじさんが、右耳から入ってきて、左耳から出ていった。おじさんはキラキラしたものを抱えていて、私は大切な人の名前を忘れている。
首吊り死体を見つけたが、傍らに「実験中」の立て札が立っているので、通報はいいか。
うちで飼っている雑種犬は宇宙犬の血が少し混じっているので、おしっこをかけた電信柱が、夜になると月明かりに反応して、ぼーんやり光る。
朝起きてカーテンを開けると、窓ガラス一杯に、窓ガラスと同じくらいの大きさの指紋が一つ残されている。
道徳の時間に殺され、理科の時間に生き返る。
夜、墓場の前を通りかかると、寺の住職が人魂に空気入れで空気を入れていた。「ご苦労様です」「ああ、こんばんは」空気を入れられた人魂がふよふよと漂って美しい。「空気を入れすぎるとね、昇天しちゃうんでね、さじ加減が難しいんですよ」住職はそう言っ…
うちのお父さんはお母さんに、「風呂」、「飯」、「笑え」しか言わない。
夜明け前、動物園、猿山のてっぺん、返り血を浴びた一匹の猿が、肩で息をしながら、飼育員がやってくるのをじっと待っている。
失踪した妻のパソコンの検索履歴に、「赤ちゃん 死なない」。
うちの娘は何度注意しても、夫のことを「お父さん」ではなく「キツネさん」と呼ぶ。
「いつでも火葬」のご利用には、インターネット環境が必要です。
見て、夜の食肉加工場……何かが、ぽわあって光ってて……綺麗……。
毎週日曜日、「来週のお母さんを選んでくださーい」と、お母さんのカタログを持ってきていた女の人が、父さんと何だかんだあって、新しいお母さんになった。
「これはお坊さんに見せてください」と言って医者は帰っていった。
複雑な手続きを踏まなければ手に取ることさえできないその本は、表紙に傷があり、これは何かと尋ねたら、麻酔銃を撃たれた痕だとのことだった。
動かしてみたらあっちも動いた。やっぱり、間違いない。ベランダのあのカラス、母さんの位牌を見てる。
「糊、ください」男の子が私の勤める文具店にやってきた。「糊、ください」両手で女の生首を抱えている。ママ?男の子はこくりとうなずいた。ボンドを渡してやった。
近頃どうも妻が浮気をしている気がするので、調査を頼んだ興信所の職員が、私に見せたのは、一本の林檎の木を写した写真だった。
その魚を獲るための船には、バイオリン奏者が一人乗せられる。
庭に蛇が現れた。「××ちゃん、蛇、蛇」息子の部屋にそう声をかけると、引きこもりをしている息子が、急いで部屋から出てきて、蛇の頭を踏みつぶした。息子の笑顔を見ることができる、唯一の瞬間だ。
ピルル、ピルル……。満員電車の中、誰かの電話が鳴っている。迷惑だなぁ、と思いながら音のする方に目をやると、一人のおじいさんが小鳥を握り潰していた。そしてやがて音が止まる。
「蚊取り線香はどう?」「だめ、むせるだけ」「お経あげてもらう?」「意味あるかなぁ」私とお母さんはため息をついて、仏間の天井から生えてきた逆さまのお坊さんを見つめる。
雨雲を見上げる。「N」の文字が刻印されている。今日の雨は、無添加らしい。
ほらほら、胃カメラ来たよ、ピース、ピース。
天国と地獄の狭間で、死んだぼくの履歴書を読んでいた光る人が、蛍光ペンのキャップをきゅぽっと外して、長ーく線を引いた。ああ、たぶん、猫の件だな、と思った。
路上での弾き語りを終え、ギターケースの中を見ると、小銭に混じって綺麗なうろこが一枚。ああ、あのサカナの娘、また来てくれてたんだ。
駅前で、「サイコロの目の数だけ私をぶってください」という看板と巨大なサイコロを持っている例のおじさんが、6の目が出やすいようにサイコロに重りを付けているのを偶然見てしまい、それはダメだろう、と注意したら、すごいキレられた。
森で遊んでいたら、木の精が現れて、マッチの擦り方を教えてくれと言ってきた。