2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧
全部入りと書いてあったのに右腕がなくて左腕が二本入っていたので、クレームを入れたが、「そういう人なんです」の一点張り。
「結婚式の最後に、土に埋めたあの人形の意味は?」そう私が問いかけても、彼は微笑むだけで何も答えなかった。思えばその時から、私たちのすれ違いは始まっていたのだ。
「明日も日の出の時刻に起こしてね」あくび混じりにそう言いながら、太陽は地平線の向こうに沈んでいった。
朝起きたら、今日も生きていた。病院の裏庭のピエロに、ご褒美の風船をもらいに行く。赤いやつを。
夏の朝、近所に住むおじいさんが空気入れを持って歩いていた。「どこ行くのー?」「おお、ちょっと入道雲をなぁ」
仏壇の母の遺影の頬が赤い。今居間には化粧品の若いセールスマンがいる。今度はあの人か。まぁ、若いから逃げられるだろう。
義眼でないと君が見えないんだ。
祖父の画葬に使われた絵の具を見て、絵はがき作りが趣味の祖母は、「夏の絵が描けそうね」とつぶやいて泣いた。
「ずるいよね」「ずるいずるい」「ずるいなぁ」木の枝にぶら下がる首吊り死体を映した動画に、そんなコメントが次々と書き込まれていく。
またおじいちゃんに会いに来たのか……。そうか……。おい……。4番の標本箱……。
古い洋館の外壁に小さな穴が開いていて、「話しかけてください」との貼り紙が貼られており、よく見ると穴の下に耳たぶらしきものが生えている。のを見ていたら、いつの間にか背後に少女がいて、「エッチなのはだめよ」と言う。
「お人形のお手入れしなきゃ」と、母が櫛と爪切りを持って二階に消えていく。
「朝ですよー、起きてくださーい」そう言って女は今朝も、夫の骨壺の中身を一つ一つ陽の当たるベランダに並べていく。
「需要があるから取り壊せないんだよねぇ」老人はそう言って廃屋の一室の扉を開けた。その部屋の壁には、びっしりと藁人形が打ち付けてあった。「山の木より効くらしいんだ」老人はどこか照れくさそうにつぶやいた。
君の夏休みの絵日記、××日の「あかちゃんをぬすんだ」以降のページが真っ白だけど、この続き、先生すごく気になるなぁ。
コインランドリーの大きな洗濯機の中で脳みそが一個ごろんごろん洗われていて、よっぽど何か忘れたいことがあったのかな、と思った。
「休めぇ、今は休めぇ」真夜中、そのホームレスが公園の遊具に触れるたび、ブランコやジャングルジムが、骨抜きにされたように、がらがらと崩れていく。
「赤ちゃんを便利に」そんな合い言葉の下、××さんのチームは、赤ちゃんが空腹を感じると、泣く代わりに、専用アプリに通知が来るようになる機械を開発しました。
しゃっくりが止まらない人はぼくの顔を見に来てください。
虫捕りやキャンプなどで山に入る人もいるだろうが、赤い神様に会っても絶対に返事をしないように、との校長先生の注意とともに、夏休みが始まる。
この曲は元々、野良ピアノを人間の手に慣れさせるために作られたんですよ。
あ、もしもし、叔父さん、お久しぶりです。あの、実はぼくも叔父さんと同じく、蛸と結婚することになったんですけど、結婚指輪って、何本目の脚にはめればいいんですか?
サーカスの空中ブランコ乗りの手から手へ、祖父の骨が入った骨壺が渡される。少し遠回りしたが、果たして祖父の夢は叶った。
我が家の飼い猫は毎月25日に、どこからか一万円札をくわえて私のところに持ってくるのだが、意味がわからなくて怖い。もらってるけど。
あなたの心臓は専門店で作ってもらったから、ほかの子より強いはずよ。さ、堂々と歌ってらっしゃい。
あれ、さっき食ったもんが歯に挟まってる。楊枝みたいなのないか、楊枝みたいなの。ああ、それでいいや、その卒塔婆くれ、卒塔婆。
宅配便の伝票を書いていた女に、「胎児のタイってどういう字ですか?」と訊かれる。
「××君、ご結婚、おめでとう!」新郎側の席にいた女性の参列者は全員そう言って「寿」と印字された錠剤を飲み込み、一斉にぶっ倒れた。
その虫を書庫に放つと、本という本から「私」という字を食べ尽くし、やがて内側から破裂して死ぬという。
あの子に告白した。あの子は悲しそうな顔をして、何も言わず、立ち去ってしまった。次の日、あの子は学校を休んだ。その日から、海が荒れ始めた。