超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

孤独な蟹

 孤独な蟹が、虚空へ向かって、鋏を必死に動かしていた。砂浜を散歩していた神様が、偶然それを見つけて、何をしているの、と孤独な蟹に尋ねた。孤独な蟹は、水平線をちょん切ろうとしています、と答えた。どうしてそんなことするの、と神様は尋ねた。孤独な蟹はただ、色々あって、とだけ答えた。神様は孤独な蟹を拾い上げ、自分の家へ連れ帰った。蟹は孤独ではなくなった。蟹は今、神様の家で、神様の眉毛を整えたり、封筒の封を開けたりする仕事を任されている。