超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

正確な正三角形

 数学の授業が始まった。教室の後ろに気配を感じ、振り返ると、今日も、前の数学教師の人魂が漂っていた。人魂はしばらく現在の数学教師の授業を眺めていたが、正三角形が黒板に描かれると、ふらふらと吸い寄せられるように、黒板に向かっていった。現在の数学教師は、指を焦がさないよう気をつけながら、正三角形について生徒たちに説明をした。授業が終わると、日直によって黒板の正三角形は消され、人魂は肩を落として教室を出て行った。慈愛に溢れた一人の生徒が、人魂を不憫に思い、正三角形を黒板に描いたが、それは正確な正三角形ではなかったので、人魂は戻ってこなかった。