超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-10-31から1日間の記事一覧

夕方、民家の玄関の前で、「おうち入れないぃ、影焼いてぇ、おうち入れないぃ、影焼いてぇ」と泣き叫ぶ子どもに、百円ライターを持った母親らしき女性が慌てて駆け寄る。

長生き

「あっ、ここにほら、××社のロゴが入っていますので、長生きしますよぉ」と手相見の占い師に言われる。

ぬいぐるみ

向かいの家のベランダにずらっと干されているクマやウサギのぬいぐるみがすべて、股間の部分がうっすら赤く汚れている。

ボタン

町のはずれのビルの壁にある「押しボタン式××」と書かれた謎のボタン。××の部分がかすれて読めない。ボタンを押しても信号が変わるわけではない。ただ以前一度だけ、霊柩車の運転手が車から降りて押しているのを見たことがある。

余白

本を食べてる時、やっぱり余白が一番美味いな、とつぶやいたら、妻に「じゃあふつうの白紙でいいじゃない」と言われたが、そうじゃないんだよなぁ。そうじゃないんだ。わかります?

球体

我が家の神棚には、バレーボールくらいの大きさの肌色の球体がまつられており、夏になるとその球体が日焼けし、冬になるとその球体にあかぎれのようなひびが現れるのだが、そのかわり、家族の誰も日焼けしたことがないし、あかぎれも出たことがない。