超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 人間の皮を丸めて筒にしたようなものを片手に持った制服の男が、掲示板の前に立っていたので眺めていた。
 制服の男が広げたその皮のようなものは、確かに人間の皮だったのだが、胸から腹にかけて綺麗に毛が剃られていて、そこへ行方不明者の情報が載っていたので、あれはそういうポスターなのだとわかった。

 制服の男が皮を片手で掲示板に押しつけて当たりをつけた後、もう片方の手でポケットから画鋲を取り出すと、皮が不安そうな声で
「ちくっとしますか」
 と言った。
「するよ」
 制服の男はかすれた声で答え、
「血が出るかもねえ」
 と寝付かない子どもを脅すような調子で続けた。皮はそれっきり何も言わなかった。

 制服の男はてきぱきと皮を掲示板にはりつけ、そのままきびきびとした動作でどこかへ去っていった。
 せっかくなので皮をよく見てみようと思ったのだが、見に行く途中で、皮は中身がないので、喋るはずがないことにふと気がついた。
 実際、皮に近づけば近づくほど、皮はただの皮であることがよくわかって、とても言葉を発することのできるような状態ではなかった。
 さっきの血が出る云々は制服の男の一人芝居だったらしい。

 皮の前にたどり着き、行方不明者の写真を見ると、その人は男にも皮にもちっとも似ていなかった。
 似ていれば面白いと思ったが、そうそう都合の良い話があるわけではない。
 一応、写真の行方不明者に、早く見つかるといいですね、と心の中で語りかけたが、本心ではなかった。
 本当に、本心ではなかったが、皮の端が照れ臭そうにてろんとめくれたので、こっちが照れ臭かった。