超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

髪の毛とベッド

 今勤めてる病院に、いわくつきの病室があるんですよ。
 3階の6人部屋の一番奥に古いベッドがあって、パッと見は普通の、何の変哲もないベッドなんですけど、掛け布団をめくると、シーツの上に、長い髪の毛の束が落ちてるんです。
 最初見つけたときは誰かのイタズラだと思ったんですけど、何度片付けても次の日の朝になると元の場所に戻ってて。
 まぁ、だから多分そういう類の現象なんでしょうね。場所が場所ですから、心当たりなんていくらでもありますし。
 そういうの片付けるのは私たちナースなんで、やっぱりしばらくは気持ち悪かったですけど、最近はもう慣れましたね。害もありませんし。
 いや、ベッド捨てるって話は何度か出たんですけど、捨てたらなんか、祟りとかありそうじゃないですか。かといって患者さんをそこに寝かせるわけにもいきませんからね。結局“故障中”って紙貼って何となくごまかしてます。
 えーと、女性の髪ですね。すごい滑らかで、艶があって、奇麗な髪ですよ。
 あとね、いい匂いがします。昔流行ったシャンプーの匂いだって先輩が言ってました。

 前に話した、ベッド覚えてます? 髪の毛の、いわくつきの。こないだいつものように布団めくって、髪の毛の束片付けてたら、何か違和感あるんですよ。
 匂い嗅いだら、シャンプー変わってた。