超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 この前夫が健康診断を受けた病院から、妻である私だけが呼び出しを受けた。
 何事かと思っていると、医者は「ちょっとこれを見ていただきたくて」と切り出し、夫の肺のレントゲン写真を取り出した。
 写真を見ると、夫の肺に影がくっきりと写っている。
 髪の長い女が、気管の方へ慌てて逃げようとしている瞬間の影だ。
 「心当たりはないですか」と医者に言われ、ある時期、夫の帰りが妙に遅い日が続いていたことを思い出した。
 母と私は浮気を疑ったが、結局何も証拠が見つからなくてうやむやのまま終わったのだ。
 こんな場所にかくまっていたとは。
 ある日突然禁煙を始めたのもこの女のことがあったからか。
 「ご夫婦一緒にいる時にお伝えするのも、アレだと思ったので……」と医者は気まずそうにつぶやいた。
 ああ、もう。
 これからのことを考えると頭が痛くなってくる。
 こんな手の込んだ浮気をするなら、レントゲンくらい乗り切れよな。