超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

温め

コンビニで猫の剥製を買ったら、頭の悪そうな店員に「温めますか?」と訊かれ、何のために剥製を買ったと思っているのだろうと腹が立った。

ウィルス

妻が作ったコンピューターウィルスは、感染したスマホ内の赤ん坊の写真を消去してしまう。

息抜き

残業中、ちょっと息抜きしてくるわね、と言って先輩は、殺虫剤を持ってオフィスを出ていった。

パン

病院のパンの自販機の前で、自分への誕生日プレゼントを選んでいる。

仕事中、電卓を叩きまくっているうちに増殖した指を、昼休み、鋏で切り落としている。

暗闇

アパートに帰ったら玄関の前でゴキブリが死んでおり、嫌々片づけていたら、隣室のドアが薄く開き、その暗闇の中から、小さな拍手が聞こえてきた。

夏の公園で蝉たちが、「プログラムを更新してください」と鳴いている。

砂糖菓子

菓子職人だった男が一人公園で、亡き娘をモデルにした砂糖菓子を、蟻の巣穴の傍に置いた。

負け

明け方の公園でホームレスが、仲間の死体の硬直した手の指をむりやりチョキの形にし、自らはパーを出して、「俺の負けだぁ」と笑っている。

車検

車検を受けたら、カーナビを心療内科に診てもらった方がいい、と言われた。

祝儀

息子が生まれたばかりの我が家に、知らない老人がやってきて、「人間に生まれ変わりましておめでとうございます」と分厚い祝儀袋を差し出す。

夜中の墓地から爪を切る音が聞こえてくる。

できたて

のれんに「できたて」と書かれている金魚すくいの屋台の店先で、店主が金魚の魂を手でこねている。

右左

いつも右手に包丁を持っている彼は、私と歩く時、私を必ず左手側にしてくれる。

ぐしゃぐしゃ

疲れて帰宅すると、郵便受けに、元妻に引き取られた息子が描いたらしい俺の似顔絵がぐしゃぐしゃに突っ込まれている。

歯ぎしり

夜中のアパートの、歯ぎしりの音が聞こえてくる部屋のドアの前に、歯を抜く器具を持った老人が立っている。

交番に、塩を持ったおじさんがやってきて、「ナメクジの落とし物ありませんでしたか」と警官に尋ねる。

少年

その幼い少年は毎日、総理大臣宛に、「あたまがよくなりますように」と書いた葉書を送っている。

無題

noteとXもやってます。リンクからどうぞ。

古紙

前を走る古紙回収の軽トラの荷台から、「遺書」と書かれた封筒が落ちた。

僕の初めての放火の記念にお母さんが作ってくれたケーキの、炎を表現しているイチゴが美味しい。

地球

地球があった空間に今は、幼稚園のみんなで描いた地球の絵が浮かんでいる。

砂糖

そのご婦人は、喫茶店で、膝の上の骨壷にブラックコーヒーを一滴垂らした後、くすくす笑って、そのコーヒーに砂糖を入れた。

笑顔

母の墓石には、墓参りに来た人の笑顔を感知してシャッターを切るカメラが埋め込まれている。

火葬場のゲームコーナーにある格闘ゲームは、炎を操るキャラクターが使えない。

不幸せに効く薬が売り切れたのを見て、薬局の店主は幸せな気持ちになった。

トンボ

墓石にとまっていたトンボに向かって指を回していた少年が、トンボが飛び去った後も一点を見つめて指を回し続けている。

お色直し

千回目のお色直しの後、花嫁は自身の死体を背負って現れた。

魚の骨の収集家のおじさんが、いつも骨を貰いに行く寿司屋の奥さんを好きになってしまい、ある日そのおじさんは、一番綺麗な骨だけを持って失踪した。

追う

離婚届をくわえて走り回る飼い犬を、妻だけが追いかけていた。