夜中、家の前の道を、納豆をかき混ぜる音が近づいてきて、やがて遠ざかっていく。
誕生日プレゼントとして父から貰った新品の蝿捕り紙を手に、少年がゴミ捨て場へ駆けていく。
父の死体にたかる蝿を見て、母は食虫植物を買ってきた。
彼女は蝿の群れを従えてやってきて、殺虫剤売り場で待ってるわ、と僕に耳打ちをして去っていった。
お母さんのことを思い出して泣いてしまったので、お母さんの墓前に、罰金の百円を置きに行く。
神社の賽銭を盗んで買った宝くじで一等が当たり、恐ろしくなってくじを破り捨てる。
一人暮らしの家で、真夜中、包丁をしまっている戸棚から、カタッ、と音がする。
害虫駆除業者の男が、帰宅するなり、妻のお尻を撫で、毒針を探している。
その日、国じゅうのピアニストが集まって、玩具のピアノを鳴らしながら、独裁者のもとへ行進していった。
神様に送ったメールに生命を添付したので、コンピューターの動作が少し重い。
コンビニで猫の剥製を買ったら、頭の悪そうな店員に「温めますか?」と訊かれ、何のために剥製を買ったと思っているのだろうと腹が立った。
妻が作ったコンピューターウィルスは、感染したスマホ内の赤ん坊の写真を消去してしまう。
残業中、ちょっと息抜きしてくるわね、と言って先輩は、殺虫剤を持ってオフィスを出ていった。
病院のパンの自販機の前で、自分への誕生日プレゼントを選んでいる。
仕事中、電卓を叩きまくっているうちに増殖した指を、昼休み、鋏で切り落としている。
アパートに帰ったら玄関の前でゴキブリが死んでおり、嫌々片づけていたら、隣室のドアが薄く開き、その暗闇の中から、小さな拍手が聞こえてきた。
夏の公園で蝉たちが、「プログラムを更新してください」と鳴いている。
菓子職人だった男が一人公園で、亡き娘をモデルにした砂糖菓子を、蟻の巣穴の傍に置いた。
明け方の公園でホームレスが、仲間の死体の硬直した手の指をむりやりチョキの形にし、自らはパーを出して、「俺の負けだぁ」と笑っている。
車検を受けたら、カーナビを心療内科に診てもらった方がいい、と言われた。
息子が生まれたばかりの我が家に、知らない老人がやってきて、「人間に生まれ変わりましておめでとうございます」と分厚い祝儀袋を差し出す。
夜中の墓地から爪を切る音が聞こえてくる。
のれんに「できたて」と書かれている金魚すくいの屋台の店先で、店主が金魚の魂を手でこねている。
いつも右手に包丁を持っている彼は、私と歩く時、私を必ず左手側にしてくれる。
疲れて帰宅すると、郵便受けに、元妻に引き取られた息子が描いたらしい俺の似顔絵がぐしゃぐしゃに突っ込まれている。
夜中のアパートの、歯ぎしりの音が聞こえてくる部屋のドアの前に、歯を抜く器具を持った老人が立っている。
交番に、塩を持ったおじさんがやってきて、「ナメクジの落とし物ありませんでしたか」と警官に尋ねる。
その幼い少年は毎日、総理大臣宛に、「あたまがよくなりますように」と書いた葉書を送っている。
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前を走る古紙回収の軽トラの荷台から、「遺書」と書かれた封筒が落ちた。