超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

硬貨

病室のベッドで眠り続ける母さんのおでこの硬貨投入口に、なけなしのお小遣いから五百円玉を入れて、母さんが目覚めるのを祈っている。

殺虫剤

ホームセンターの殺虫剤コーナーの「しつこい妖精に」と書かれた缶から甘い匂いが漂ってくる。

仏像の代わりに巨大な電子レンジが鎮座する寺から、オレンジ色の光が夜の路地に差している。

仏像

また仏像が増えましたねと胃カメラの映像を見た医者が言う。

無言電話

いつもかかってくる無言電話の相手が、今日は火葬場にいることがなぜかわかる。

接着剤

狂った男が夜中、動物園に忍び込み、動物たちの背中のファスナーを、内側から開けられないように接着剤で固めていく。

金魚

前世が人間だった金魚ばかりを集めた金魚すくいの屋台を覗くと、囚人だった連中が水槽の隅にかたまって震えている。

びっくり

道端に落ちていた人間の頭蓋骨に小便をかけたら、突然その頭蓋骨にひびが入ってびっくりした。

いつもより遅く昇ってきた太陽にビールの泡がついている。

義母が頑張って作ってくれたオムライスの、ミックスベジタブルの色を見て、ここはやはり異星なのだと改めて実感する。

ポン

母の墓前に私の卒業証書を供えた墓地の方から、夜中、ポン!と筒の蓋を開ける音がする。

かくれんぼ

死んだ息子たちが墓地でかくれんぼをしているが、彼ら自身の墓石の陰には誰も隠れようとしないのが可笑しい。

水の音

隣の房にいる人魚の受刑者が寝返りを打つ水の音が涼しい、夏の夜だった。

「蝿が寄ってきたらごめんね」と言って、脳味噌剥き出しの彼女は、春の公園のベンチ、ぼくの膝枕で寝始めた。

給料

最後の給料日に貰った給料袋の中に、部長が背中の翼から抜いた羽根が一本入っていた。

ネジ

僕らがネジを一本盗んだから、もう雨上がりに虹が架かることはないだろう。

死んだふり

真夜中の病院の廊下の真ん中で、死んだふりをする看護師を、病室のドアの隙間から、病人たちが眺めて、くすくす笑っている。

プリン

今日も家に帰ると、冷蔵庫の中に、プリンの写真が冷えていました。

籠いっぱいに位牌を詰めた自転車で海へ向かうおばさんを、死んだ子どもたちが笑いながら追いかけていく。

青海苔

空から青海苔が降ってきたので、そろそろこの土地から離れないといけない。

ネジ

真夜中の粗大ゴミ置き場で、ロボットのカップルが、お互いのネジをドライバーで緩め合っている。

コンビニで耳を買った私に、「温めますか?」と訊いてきた高校生のバイトの耳は、赤く、温かそうだった。

リーン

秋の電話畑の方から、リーン、リーンと、鈴虫が張り合っている音が聞こえてくる。

UFO

カツラの大群が、UFOのように空を飛び、俺の禿げ頭を探して、右往左往しているのを、ゴミ箱の中で震えながら見ている。

学生たち

死体部の学生たちがマネキン人形を担いで河原へ歩いていく。

いる

墓参りの時、祖母の墓前に置かれている顕微鏡を覗いた母が、「いるわ」と言って笑った。

三百匹の羊を数えた辺りで、僕は眠りに落ち、翌朝、僕の財布からは三百円がなくなっている。

授業

理科の授業で、囚人の命の重さを量っている時、突然囚人がけたたましく笑い出して、怖かった。

ダンス

母の死体にたかっていた蝿に教えてもらったダンスで、孤独な夜を乗り切っている。

剥製

空に雨雲の剥製が飾られたので、地上の人々は各々、ジョウロやシャワーを用意し始めた。