雪が降った翌朝の墓地に、墓石たちが追いかけっこをした轍が残されている。

生首の自販機を一日三回掃除するバイトを始める。

天文学者の父が、宇宙人から貰った酒を飲みながら、ずっと大切にしてきた天球儀を、足で踏んで壊している。

病床の母が口から吐く蝶が、だんだん図鑑に載っていないやつになっていく。

ある夜、空から一本の絵筆が落ちてきて以来、月は満ち欠けをやめた。

公園の隅、「ぼくにえさをやらないでください」と書かれた看板の下で、おじさんが膝を抱えている。

閉店後の居酒屋の厨房で、板前がまな板についた魚の血で、数式を解いている。

墓地から「肥ったなぁ～！」という声が聞こえてくるので、見ると、骨壷を抱えたおじさんが、目の前の墓石を笑顔でぺちぺち叩いている。

アパートの隣の部屋の玄関のドアノブに、コンビニ袋がかけられていて、何かいいもん入ってないかな、と思って中を覗いたら首吊り縄が入っていたので、気は進まなかったが、それで首を吊って死んだ。

脳味噌に野球選手のサインが書き込まれている人体模型が、理科準備室から野球部の練習を眺めている。

天使が近くを飛んでいるからパソコンが文字化けする。

袈裟をまとったアリクイの目の前のアリの巣穴から、一筋の煙が立ち昇っている。

銭湯に入ったら、小さな男の子が、でっかい位牌の背中を洗っていた。

電話越しに母の急死を知らされた瞬間、目の前にある父の墓石にぶわっと鳥肌が立った。

「うちの子はもう学校には行きませんよ」と言って、彼の母親が指さす方を見上げると、彼は夏空にいて入道雲を食べていた。

昆虫学者に嫁いだ姉が、実家にふらりとやってきて、台所のゴキブリ用の罠の前に座ると、静かに三味線を弾き始めた。

脳味噌を交番に届けた少年が、持ち主からお礼に、三番目の恋の記憶を貰う。

口の周りを赤く染めたライオンが、始発電車の座席に座ってぼんやりと窓の外の海を見ている。

雨上がりの町のあちこちから、虹の缶詰の蓋を開ける音が聞こえてくる。

道ですれ違って目が合った瞬間、霊柩車と救急車の運転手が恋に落ちた。

夜、寂しくなり、テレビのリモコンの「訃報」ボタンを押すが、誰も死んでない。

中庭の蟻の巣が大雨でめちゃくちゃになったのを見て、囚人は首を吊った。

病室のテレビの裏から「殺人」「放火」「汚職」等と書かれたメモが出てくる。

夜空を見上げてため息をついた天文学者たちは、月の兎の去勢手術の計画を立て始める。

手品師の男が亡母の墓にトランプを一枚供えて廃業した。

電車内、「切符を見せてください」と言われたお婆さんが、膝に置いている骨壺の中に手を突っ込んで、ガシャガシャと中を探っている。

地球へ帰れなくなったぼくらに神様が、青くなった舌を見せて笑った。

中華料理屋のカウンター席で飯を食い、勘定のために立ち上がった時、隣の席のおっさんが食っているチャーハンの具が全て、白い、何かの錠剤であることに気づく。

病院の待合室に置かれている、不死の薬に関するパンフレットが、何か鋭利な物でズタズタに裂かれている。

暗い顔をした寿司屋の若い職人が、早朝、電柱に海苔を巻いて歩いている。