2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧
非常口のマークの緑の人が鼠を食っているのを見て、あのドアは非常口じゃないのかもしれないと思う
視線の先に偶然「川を汚すな」と書かれた看板が見えて、男の死体は、はにかみながら川を流されていった
ビルの八階のオフィスで、課長に長々と説教されている最中、課長の背後の窓の外を、課長の家族が次々と落ちていくのを見る
母の遺骨は大小の白い蝶になって骨壺から逃げ出し、その蝶たちは今みんなで海を渡っている
この間の夏祭りの屋台でとったのであろう、金魚の入ったビニール袋が刑務所の門に吊られていて、誰への差し入れだろうと、囚人たちが朝から晩まで論じ合っている
成人になる前の夜、ベッドでうとうとしていたら、ピエロのメイクをした両親が部屋に入ってきて、部屋じゅうの時計という時計を壊して去っていった
カーテンを開けると、風の剥製を作る職人が丘へ登っていく後ろ姿が見えた
この頃とつぜん宗教や哲学について論じるようになった小学生の娘の学校の給食献立表をふと見ると、びっしり「蝶」という字で埋め尽くされている
病室に飾られている花を一輪百円で買い取ってくれるおじさんのため、その貧しい少年は今日も面識のない人々の病室に忍び込む
月を盗んで洗濯機の中に隠しているので、いつまで経っても下着が洗えない
数日間行方不明になっていた飼い犬が、おでこに「済」のスタンプを捺された状態で帰ってきて、それ以来彼女は「わん」ではなく「にゃー」と鳴くようになった
今朝の通勤電車に乗っている全ての人がスマホで、昨日見つかった神様の死体の写真を見ている
人魚から貰った貝のイヤリングを駅のゴミ箱に捨てたぼくを乗せた電車は海から遠ざかっていく
誰も何も言わない分娩室の中に、焼き林檎のにおいが立ち込めている
妊婦の双子が、公園のシーソーの両端に跨った瞬間、シーソーが水平にぴたりと止まり、彼女らは照れ笑いを浮かべ、別々の方向へ立ち去っていった
死刑囚が独房の中で一人やっている空想の花占いが、いつまで経っても終わらない
お母さんがぼくをぶつ時に口から出る黒いモヤモヤを食べて、部屋の隅の蜘蛛は生きている
落ちぶれた貴族の子であるというその少年は、地球儀を見ると吐いてしまうため、地理の授業の時はいつも保健室にいた
雨の朝、玄関先でひっくり返って死んでいた蛙の腹に、私と知らない男の子の名前の相合傘が書かれている
夕日でよく伸びるように、いつでも影を柔らかくしておくんだぞ、と父は言い残して、空へ旅立った
自分の寿命がわからない方は「イツシヌ?」のウェブサイトまでアクセスしてください
空からひらひらと落ちてきたメモに、「雪を降らせる ←忘れず!」と書かれている
好きな子が入る棺桶を作りたいという思いが日に日に強くなっていって、毎日学校の帰りに、ホームセンターでぼんやり木材を見ている
人のいなくなった村で、作業服姿の男が一人、道端の地蔵に近寄り、頭部に両手をかざしてはため息をつき、地蔵の顔に黒いスプレーで「×」印をつけていく
一人で寝ている冷たい布団の中で、脚を擦り合わせているうちに、自分の脚の数が増えていくことに気づく
私が作った蝶の標本の前でうなだれる芋虫の肩を抱きたいが肩がどこかわからない
そこでしばらく、夕日は林檎で代用されることになった
敵も味方もみんな死んでしまった戦場をふらふらさまよい歩いているうち、敵兵のいた塹壕の中に一冊の文庫本を見つけ、そこに挟まれていた栞を抜いて捨て、また歩き始める
満員電車の人混みに揉まれているうち、いつの間にか、バターを塗りたくられたバターナイフを手に握っていて、困惑しながら周りを見ている時、ふと、隣の車両にいるトーストを口にくわえた女と目が合う
母のおむつを取り替える時、便の中に、溶けかけた妖精がいることに気づく