超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

熱と指

 湯が沸いてやかんがピーピー鳴き出したので台所に行くと、見知らぬ女がコンロの前にぼーっと立っていて、熱い湯気をしゅんしゅん噴き出すやかんの口に人差し指を突っ込んでいた。

 蓋を開けたままのカップラーメンを握りしめながら、どうしたものか考えていると、女は自分の指をじっと見つめながら「やっぱりあたし死んでるんだ」とつぶやいて、湯気と混じりあうように薄くなり、やがて消えてしまった。

 カップラーメンにお湯を入れたあと、なんとなく不安になり、やかんの口に指を突っ込んだが、当たり前のように火傷してしまって、アルバイトの時間にとても難儀した。