殺風景な私の部屋の隅には、床から目が生えている。
私はそんな目の前で寝ころんで、朝から窓の外の秋空を眺めている。
目はじっと目を閉じている。
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私がこの部屋にやってきた時から、目は一度も目を開けたことがない。
目はただじっと目を閉じている。
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窓の外が眩しい。
私は目を見ながら、そっと息を吐く。
床と同じ色のまぶたに挟まれた長いまつ毛が、ぴくりと震える。
ぴんとそそり立ったまつ毛の影は、目のそばに投げ出された私の指に、まるで鉄格子のように重なっている。
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私は今日この部屋を出ていく。
その前に、目にきちんと告げなければならない。
私は寝ころんだまま、目を指で撫でながら、目に語りかける。
「ごめん、嘘ついてた」
「私は一人じゃない」
まぶたの薄皮の向こうで、目玉がころころと動いたのがわかった。
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私は起き上がり窓を開ける。
ぬるい風が吹き込んできて、まつ毛を揺らす。
私は鞄を手に取り、目の方を振り返る。
床に小さな水たまりができている。
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私は玄関で靴をはき、ドアを開ける。
秋の光が道を照らしている。
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一歩踏み出そうとした時、背後で聞いたことのない音がした。
たぶんあれは目が目を開けた音だ。
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私は振り返らず、殺風景な部屋の薄汚れた天井を思い出しながら、後ろ手にドアを閉める。