超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

地平線

日が沈んできたのに、地平線のファスナーが噛んじゃって開かない。

たこ焼き屋

たこ焼き屋の親爺が一枚のたこの写真をポケットに入れて、心療内科を訪れた。

夕暮れ時

夕暮れ時、女子高生の集団が、「何あれ、新しくない?」と言いながら、夕日を指さして笑っている。

キャンディー

舐めていたキャンディーを口の右側から左側へ移動させた次の瞬間、何者かの小さな手で右側に戻される。

泣きじゃくる彼女の目に取り付けられた浄涙器がきちんと作動しているのを確認してから、飼い犬は彼女の涙を舐めた。

専門店

遺書買取専門店の店先に、「ラブレター買取始めました」ののぼりが立っていて、笑ってしまった。

青い蝶

飲酒検問をしていたので、警官の指示に素直に従って、機械に向かって息を吐いたら、口から青い蝶が飛び出てきて、次の瞬間俺は射殺されていた。

趣味

お互いに自殺が趣味であるカップルが、「死ぬまで愛してるよ」と言っては、ゲラゲラ笑い合っている。

くしゃみ

くしゃみが出る直前、鼻の穴の中から、シートベルトをつける音が聞こえた。

同窓会

同窓会に出席したら、一人だけ宇宙服を着ている女子がいて、周りの女子たちから、「そのままじゃ結婚できないよ」とテレパシーで説教されている。

リーチ

ある夜、誰もいない墓地から、「リーチ!」と声が聞こえて、その直後、墓石が一つ、どすんと倒れた。

マウスポインター

葬儀の最中、どこからか入ってきたマウスポインターが、棺桶の中の祖父の遺体の周りをうろうろしている。

家鳴り

虹職人が孤独死していたという部屋を借りたら、雨の日にだけ家鳴りがする。

歯磨き粉

歯磨き粉のパッケージに、首を吊る虫歯菌の絵が描かれている。

満面の笑みの手相占いの易者に、手を食べられている。

先輩

女の二人組が妊婦に近づき、若い方の女が妊婦の膨らんだ腹を撫でながら、傍らの中年の女に、「先輩、これおごってくださいよ~」と言う。

手品師

手品師の男が、病床の息子から、「お父さん、これ消して」と、苦い薬を手渡される。

桃の缶詰

「私以外の女の人を好きな夜は、桃の缶詰を買ってきて」と妻に言われているのを思い出し、今夜は会社の帰りにスーパーマーケットに立ち寄った。

大女優

そして地球は異星の大女優のつけぼくろになった。

旅人

帆の穴を俺の遺書で塞いだ旅人の舟が、朝日に向かって旅立っていく。

ぶーん

夏の夜、蚊帳の外から聞こえる「ぶーん、ぶーん」という音が不自然なので、目をやると、宇宙服を着た人たちが立っていて、手に持ったラジカセから蚊の羽音を流している。

恋人

駅の売店で買った恋人と電車に乗り込むと、恋人がどこへ行くのかと尋ねるので、海だと答えると、恋人が死ぬのかと尋ねるので、そうだと答えると、恋人は私また値段が下がっちゃうわ、と笑った。

家の中にぎっしり増殖したお母さんの数を数えていたお父さんが、「まだまだ愛せるなぁ」とつぶやいて、さらにお母さんを増やそうとする。

郵便物

ポストの郵便物を回収していたら、気味の悪い子どもが近寄ってきて、郵便物が詰まった袋のにおいを嗅ぎ、「喪中葉書が入っているね」と笑った。

向こうから歩いてきた女性が押すベビーカーの中に一枚の大きな紙が入っていて、山折り谷折りの線が引かれており、あれを折っていけば赤ん坊になるのだな、たぶん、と思う。

チップ

レストランで神様に給仕した時に、チップとしてわずかに延ばしてもらった寿命を使って、海を見に行く。

養豚場の奥で眠る先生のいびきを聞きながら、豚たちの背中に書き込まれた小説を原稿用紙に写し取っている。

小さい頃は、お母さんの幽霊の脇腹をくすぐることが出来たのに、と夜明けの墓地で、自分の両手を見つめている。

独り暮らしだった兄が死に、遺品を片付けていたら、兄が飼っていた亀の甲羅に、油性マジックで「女」と書かれているのを見つける。

温め

レトルトの幽霊のパッケージの「温めすぎると成仏してしまいます」という注意書きと、中に何もいない電子レンジとを交互に見ている。