燃え尽きた蚊取り線香をぐるりと囲んで、蚊たちが詩の朗読会を開いている。

「あの世で童貞捨てるわ！」と笑って彼はビルの屋上から飛び降りた。

産婦人科の売店の隅の赤ん坊修理キットが埃をかぶっていて、それを見てどういう顔をしていいのかわからない。

耳掃除をしている時、耳の中に貼っておいた「ここに犬猫を捨てないでください」の貼り紙をうっかり剥がしてしまい、今朝起きたら早速、耳の中がミャアミャアうるさい。

晴れてるのに寒いと思ったら、死んだ子どもたちが空に集まって、みんなで太陽にふーふーしている。

禿げ頭の頭頂部に林檎のへたがついているお坊さんと、蜜柑のへたがついているお坊さんが、柿の木の下でひそひそ話をしている。

ふと自分の足を見ると、靴下の小指の位置に開いた穴から、親指が出ている。

放火の教科書に載っている偉人の写真に、瞳の中で炎が燃えている落書きを施す。

他のクラスで飼っていた金魚が死んだので、その死骸を、うちのクラスで飼っているお坊さんのところへ持っていって、反応を観察する。

荷台に胎児の絵が描かれたトラックが、産婦人科に突っ込んだ。

首を吊りに行って、苺を買って帰ってきた夫に、何も訊かず練乳を渡す。

我が家に遊びに来た火星人の友人が、祖父の使っている足ツボサンダルを履いた瞬間、爆発した。

豆腐に醤油をかけようとした瞬間、スマホに着信があり、画面に「お豆腐」という文字が表示されている。

「こないだのお返し～」と笑いながら、墓地でおばさんが一人、墓石をくすぐっていた。

引きこもりの兄の部屋のドアの隙間から毎日、母に宛てたラブレターが廊下に落とされる。

公園で一人、虫眼鏡で集めた日光で蟻を焼いていたら、スーツにネクタイを締めたでっかい蟻がやってきて、「アリガト」と言われた。

趣味のハンティングの最中ライオンに襲われたオーケストラの指揮者は、いつも指揮棒を持っている右腕だけ、食い残された。

冷蔵庫の中に夕空が入っているから、あっためて黄昏なさい。

夜の独房に、私が殺した女の幽霊が現れ、私が知らなかったほくろを見せてくる。

毎朝ぼくにネクタイを結んでくれる機械が、ぼくの孤独を憐れんで、ある朝、ゆっくりとぼくの首を絞める。

彼が砂浜に書いた詩は、ある一匹の蟹に鋏を捨てさせた。

ぬか床をかき混ぜていた時、中に漬かっている赤ちゃん人形が「たすけて」と言った気がして、心臓が止まりそうになった。

爪切りを握りしめた老婆が、電車の車両を歩きながら、乗客一人一人の手を見ている。

毎日絹ごし豆腐に首輪とリードをつけて散歩させているおじさんを笑っていたが、ある日ふと、その絹ごし豆腐が一切崩れたりしていないことに気づく。

誰もいない夜の現場で、親方がショベルカーと踊っていた。

たこさんウィンナーにされたウィンナーが、本物の蛸に会いに行くドキュメンタリー番組を、数年前深夜のテレビで、観た気がするが、周りの誰もそれを知らない。

夏祭り、花火がより綺麗に見える薬を注射してくれる屋台の前に行列が出来ていて、早く打ってもらわなきゃ花火が始まっちゃうよ。

廃品回収の軽トラの運転手が、昨日見た霊柩車の運転手と同じ人だった。

授業中、窓の外から救急車のサイレンの音が聞こえてきた瞬間、担任の先生が、黒板を書く手を突然止め、「おかあさんかな？」とつぶやいて教室を出ていき、そのまま二度と戻ってこなかった。

老人が孤独死していた四畳半の部屋の、古新聞の山の上に置かれたコーラの空き缶に、マジックで書かれた誰かの戒名。