超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

アプリ

霊柩車の接近を伝えてくれるアプリから通知が来たので、洗面所に行って親指を綺麗に洗う。

明日殺処分される犬の耳が、外から聞こえてくる打ち上げ花火の音に反応してピクピク動いている。

待合スペース

床屋の待合スペースの本棚にあった、人の呪い方の本をめくったら、人の髪の毛を使う呪いがいっぱい載っていた。

棺桶

猿のために作られた棺桶はバナナの形をしていた。

めかて

まいにち、めかてのかずがかわる、おにんぎょうだよ!

銀行

当銀行ではお金への考え方が変わる薬を三種類販売しております。

星屋の裏から、廃棄になった星を拾ってきて、においを嗅ぎ、まだ生き物がいるね、と、恋人とささやき合う。

味噌汁

夜中、腹が減ったので台所に行くと、夕飯に出た単二電池の味噌汁が鍋に残っていて、おたまですくって飲んでみるが、冷たい上にピリピリもしない。

錠剤

夜空に溶けるために飲むその丸い錠剤には、月の模様がプリントされていて、洒落てるな、といつも思う。

影がなくなる病には造花を煎じた茶が効くそうだ。

書物

猫に関するあらゆる書物を買い込んだその紳士は、書店の上空に浮いていたUFOにゆっくりと吸い込まれていった。

出汁

部屋の掃除中、つけっぱなしにしていた背後のテレビから、「出汁はお坊さんです」という声がして、思わず振り向くと、料理人とアシスタントが剃刀を持って、澄み切った目をした中年男の髪を剃っている。

手術台

手術台の上のアイスキャンディーがメスで切り開かれ、中の棒の「アタリ」の字が見えた瞬間、医者たちは力強く頷き合った。

ミラー

信号待ちの霊柩車のミラーを覗き込んで化粧を直している女をよく見ると、顔が無い。

青い蝶

地球に擬態する青い蝶の羽ばたきの音が空のかなたからゆっくり近づいてくる。

うちの養豚場の豚たちの中に、豚のふりをしている人間の男が紛れ込んでいるそうだが、どれだか判らずに、どんどん豚たちが出荷されていく。

駆け落ち

トマトと駆け落ちして家を飛び出した八百屋の親爺が、ある夜、橋の下で、空腹に耐えかねてそのトマトにかじりついてしまう。

台所で卵を割るたび、アパートの隣の住人が壁を蹴ってくる。

僧侶

街を破壊しながら歩く巨大な僧侶が、その体や頭にミサイルを当てられるたびに、手を合わせて深々とお辞儀する。

看板

胃カメラに一瞬映った、「胃→」と書かれた、誰かのための看板。

救助

エレベーターに閉じ込められ、知らないお爺さんと二人きりになった時、救助を待つ間、お爺さんが持っていた鶏の首を絞めて過ごした。

電子レンジ

もう一度宇宙作るか、と、神様は電子レンジの扉を開けた。

髪の毛

ぼくの髪を切っていた床屋が、とつぜんぼくの頭から一本の髪の毛をぶちっと抜き、「お前は違うだろ」とつぶやいて、その髪の毛を店の外へ逃がした。

電車の同じ車両に乗り合わせた、どこかの学校の雲部の少女たちが、みんな窓の外を見ているので、そちらに目をやると、実に立派な入道雲があった。

ウィンカー

車を運転中、死んだ子がいつの間にか膝の上に乗っていて、ウィンカーをいじるので、その方向に従って車を走らせていたら、野良猫の集会に出会った。

綺麗

母の葬式に来た課長が、「綺麗だから」という理由で、母の遺影をスマホで撮り、待ち受け画面にしている。

朝、お腹の中から聞こえてくるマラカスの音で目が覚めた。

鯨になる夢を見ていた金魚が金魚鉢の中で溺れかけた。

借りるね

スマホに死んだ母から着信があって「借りるね」とだけ言われて切れて、何だったんだろうと思いながら化粧の続きをしようとすると、鏡に自分の姿が映っていない。

ゴミ処理場のゴミの山の中から今夜も、よろよろと月が夜空に昇っていき、頑張ってくれるのは嬉しいが、やっぱり夜風が少し臭い。