超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-01-01から1年間の記事一覧

口臭

人間が見た夢を食べた後のバクは、口臭を消すために、ゴキブリが見た夢を食べるそうだ。

UFO

結婚式の日に見たUFOを、数年後、離婚届を提出しに行った日の帰りも見た。

私の名前には「日」の字が入っているが、放っておくと毛が生えて「白」になってしまうので、定期的に毛抜きで抜いている。「白」の字の方が本当の名前なのではないかという気もしている。

成人向け

この本屋は、成人向け書籍のコーナーに、月の写真集がずらりと置かれていて、店主の爺さんはいつも夜になると、店を閉めてしまう。

ベルトコンベアー

誰もいない町工場でひとり動き続けるベルトコンベアーの上を、際限なく金魚の死骸が流れていく。

練習

同じ毒蛇の先輩に紹介されて、「俺は死なないから大丈夫なんだよ」と笑う人間のおじさん相手に、人間を咬む練習をする。

義妹

口の中にかくまっている義妹の流す涙が口内炎に染みる。

人形

亡くなった息子を象った人形を、妻のために、定期的に「家出」させている。

トースト

朝食の途中、母に呼ばれて席を外し、戻ってきたらなぜかなくなっていたかじりかけのトーストが、数年後、月面で見つかる。

てんぷら粉

てんぷら粉をまとった満月がゆっくりと海に沈んでいき、今夜は海に近づかないでください、との声が町内のスピーカーから繰り返し流れている。

うち、背ぇ低いから、雲のトリマーにはなれないんだ。

エラー

鏡の前に立った瞬間、鏡に「エラー」と表示され、私の顔が映らない。慌てて顔を手で撫でると、毛のような物が生えている。

発電所

その発電所の裏の山には、過労で死んだ龍たちの死骸が埋められているそうだ。

肉屋

この肉屋の肉は学歴順に並べられている。

虫かご

終電に、頭部が蜘蛛のサラリーマンが、背中を丸めて座っていて、時々、手元の虫かごを見て、ため息をついている。遠目にも、その虫かごの中に、ばたばたもがく蝶が何匹も入っているのがわかった。

寒い冬の日の朝礼で、みんなが白い息を吐く中、私が吐く息だけ、青いことに気づく。

おみくじ

夜中の神社で、缶ビール片手に真っ赤な顔のおじさんが、木に結ばれているおみくじを次々と解き、凶と大凶を次々とポケットに入れつつ、「俺に任せろぉ……」とつぶやいている。

秘密基地

神様に見つからないようこっそり作った密造月が、ぼくらの秘密基地の天井に浮かんで、ほのかに光っている。

背中

泣きじゃくる夏の神様の背中を、秋の神様が優しくさすっている。今年もそういう季節。

眼鏡

眼鏡を作ってから、授業中に首を伸ばさなくなった、隣の席のろくろ首の女子に、「最近、首、伸ばさないね」って話しかけたいのに。

チラシ

朝、時々、校門の近くで、「お母さんを直します」と書いたチラシを子どもたちに配っていたあのおじさんが、最近逮捕されたらしい。

気分がくさくさするので近所の田んぼに蛙を潰しに行ったら、元夫がいて、蛙を潰していた。

金魚

うちの金魚すくいの屋台の金魚は、みんな目が見えないんでゲス。

蜘蛛

仏壇の中に、蜘蛛が巣を作っている。何も捕まらないはずだが、その蜘蛛は仏壇で、もう二十年生き続けている。

出産予定日

出産予定日に地球が滅びることがわかって、この子、どうしよう。

飼い犬

母の髪の毛しか食えなかった飼い犬が死んだ後、母は尼になった。

寝相

息子は熟睡すると、非常口のマークの人と同じ格好の寝相になる。そう、彼の本当の父親は……。

月を眺めていた妹が笑い死にした。

天使

母を迎えに天から降りてきた天使が、炊飯器の湯気を必死になってよけている。

仏壇

空き巣をしに入った知らない人の家の仏壇に、なぜか俺の写真が飾られている。