超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

我が家に出る蚊が年々大きく、賢くなっている。今年は手土産を持って玄関から入ってきた。来年は呼び出されるかもしれない。

破壊

街に怪獣が現れた。逃げなくては、と身構えた矢先、怪獣の腹に、広告が入っていることに気づいた。あ、こいつは逃げなくても大丈夫なやつだ。それより、何を壊して何を壊さないのかをじっくり観察してやろう。

証明写真

証明写真を撮るため機械の前に座ったが、「あなたには顔がありません」とのエラー表示が出るばかり。

十七分

何度蹴っても私の足に吸いつくように転がって戻ってくる誰かの目玉を、蹴っている、戻ってくる、蹴っている、戻ってくる。ころころころころ、午後の私鉄の陽の当たる席で。次の駅まで十七分。

心臓

十字路の真ん中に心臓が落ちていたので、つま先で軽く蹴ると、トクン、と一度だけ鼓動して、その直後、「ウゴォォォォォ」と何かの声が辺りに響いた。目覚めさせてしまったのか、とどめをさしてしまったのか。

手品

「信じられない」といった表情で自らの手や足を見つめる人々を引き連れて、手品師が墓場から出てくる。

義母

「どれ産みたい?」義母は赤ん坊のカタログをどさっと置いて言った。

怒る

子どもが悪いことをした、ので、怒らなければいけない、が、怒る、怒る……あれ、「怒る」のガス、どのボンベだっけ……?

修学旅行

あくまで修学旅行は勉強の一環だからなー。地球人の醜さをよーく見ておけよー。

マネキン

勤め先のブティックにやってくる、常連のおばあさんは、何度注意しても、窓際のある一体のマネキン人形の足元に、おにぎりを置いて帰っていく。

怒り

「そんなことして、お祖母ちゃんもほら、怒ってるよ」と母に手渡された祖母の位牌は、赤い液体でじっとり湿っていた。

傘をさした酔っぱらいかと思ったら、小型のUFOに脳を吸われてふらついているおじさんだった。

提案

そうだ、××君。君のお家って、確か、死にかけのご家族がいたよね。じゃあ、こんな自由研究はどうかな?

昨日まで雪だるまがいた場所にできた水たまりに、ぽつんと体温計が落ちている。

モーツァルト

「ふんふんふーん、ふんふん……」今日は誰も焼かれていない火葬場の煙突が、静かにモーツァルトを口ずさんでいた。

写真嫌い

あ、これも、ほら、これにも……不思議ねぇ、生前はあんなに写真嫌いだったのに……。

三日月

ふと見上げた三日月の中に牙が覗いている。

忘れ物

ああ、それは、ろくろ首と付き合ってた頃に、その子がうちに忘れてったマフラー。

コツ

火星トマトはファスナーを開けて、こまめに中へ声をかけてやることで美味しく育ちます。

会議

どうも最近の「会議」において、こないだ最後の地球人の葬儀に立ち会った連中の発言力が増しているような気がする。

けち

今年度は政府が予算をけちってレンタル代を削ったため、夜空を見上げても星も月も出ていない。

波にさらわれ、砂の城が崩れると、中から王冠をかぶった生首が現れ、やがてそれも波にさらわれて、あとはただただ静かな砂浜。

自殺税を納めに来た人のさびしい背中を、役所のカウンターの中からぼんやり見送っている。

風景(コインランドリー)

深夜のコインランドリー。赤い前掛けがぐるぐる回る乾燥機を、六体の地蔵がじっと見守っている。

クレヨン

昼休み、コンビニに行くと、傘立てに巨大な白のクレヨンが挿さっていて、店に入ると、翼の生えたお兄さんがカップラーメンにお湯を入れていて、空を見上げると、飛行機雲がまっすぐ一筋。

お悔やみ欄

××新聞のお悔やみ欄は、なぜかいつでもその部分だけ少し湿っている。