超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

雪だるまを作って楽しげに遊ぶ子どもたちをよそに、今日もテレビはどのチャンネルも、春の神様が入院している病院からの中継映像を流し続けている。

母の皮は娘のおもちゃ箱にあり、父の皮は私のスーツの隣に掛けてある。

「途中に現れる蛇は全て轢き潰してください」と言いつけられて、霊柩車の運転を任される。

友人の家に遊びに行ったら、友人の母から「たまに気に入られて出られなくなる子がいるから」と、家の壁を切り裂くための斧を手渡される。

押入

一度も開けたことのない我が家の押入の前には、「××家炭鉱」と書かれた立て札があり、時折屈強な男たちが訪れては、記念写真などを撮って帰っていく。

レビュー

神様や精霊たちが俺の人生に対して付けたレビューと星の数を、天国と地獄の狭間ではらはらしながら読み進める。

遅刻

「せっかくのデートなのに遅刻するなんて許せない、帰る」という意味のミステリーサークルの傍らに突っ立って、ぼくはいつまでも夜空を眺めていた。

しまった

しまった、もうこんなに参拝客が来てるのに、仏様の電源入れるの忘れてたっ。

暖かい季節になると眼鏡を外す彼女の瞳はよく見ると蝶の形をしている。

いる

通学路の途中にある(いる?)木彫りのお姉さんが、日に日に私に似てくる。

双子

双子の兄が首吊り自殺を遂げた日、双子の弟は声変わりをした。

白と赤

真っ白な便せんに、血が一滴垂れて弾けた跡が残っているだけだが、なぜだかぼくにはそれがぼくの妻に宛てられたラブレターなのだと分かった。

この世のどこかに、蜂の針でしか再生することのできないレコードがあり、そのレコードを聴くと、蜂蜜を食べるたびに泣けてくるそうだ。

ねぇ、××ちゃん、悪いんだけど、ちょっと肩を……あ、Aの6番を叩いてくれないかねぇ。

裏路地

ふと迷い込んだ裏路地で見つけた、「ねこ」とだけ書かれた自販機に、蝿の群がたかっているのを見た、夏の暑い日。

お花畑を駆け回る楽しい夢を見ていたのだが、隣で寝ていた夫によると、私はずっと寝言で誰かに命乞いをしていたらしい。

写真

はい、皆さん、この写真が遺影になりますので、笑って、笑って!

雨の夜、前を歩く人をふと見ると、一本の傘の下に七本の脚がうごめいている。

どちらの

さて今回はどちらの部分が入っているだろうか、人魚の缶詰。

どちらが

まな板に案内された妻と、三角コーナーに案内されたぼく、果たしてどちらが不幸だったのか。

手術

おじいちゃんの心臓の手術に、時計職人が立ち会うと聞いて、おじいちゃんが時間に厳しい理由がわかった気がした。

一本道

暗い海を眼下にのぞむ崖へと続く近所の一本道は、夜中になると、地面に書かれた「止マレ」がそっと「生キロ」に変わる。

葉脈

葉脈の浮かぶ掌に別れのキスをして、ぼくらは庭師と花という関係に戻る。

電車に赤ん坊を連れた若い女性が乗っていた。女性の腕の中で赤ん坊は身じろぎ一つしなかった。おとなしい子だ、と思いながらよく見ると、赤ん坊の背中のファスナーが開いていて、中はがらんどうだった。何だ、中身はいないのか。おとなしくて当然だ。女性は…

何度教えてもうちの息子は、「肉」という漢字を毎回違う人の名前で読む。

相合い傘

今年も、俺の名と知らない女の名との相合い傘だけが描かれた謎の葉書が届いたが、臭いや色から察するに、どうもインクに血が混じりはじめている気がする。

チラシ

平凡な人生の終わりがそろそろ見えてきた頃、いつも見ずに捨てていたチラシの束の中に、運命の歯車の定期点検に関するお知らせを見つける。

景品

ずるいよ、このクレーンゲーム。骨壺の蓋、閉まってるじゃん。

謎の首吊り自殺を遂げた父が使った黒い首吊り縄から、去年死んだ母が使っていたのと同じシャンプーの匂いが漂っている。

どこにも出入り口がないのに、その火葬場では毎日何かを焼いている。