2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧
何度押入の奥にしまっても、ふと気が付くと、雛人形の顔を踏んでいる。
動物園の猿山の内側の壁に、びっしり刻まれた、「正」の字。
夕方、公園の公衆便所の小便器で用を足していたら、宇宙服を着た一人の男が入ってきて、俺の股間をのぞき込み、「@*;%……」と俺の知らない言葉をつぶやいた後、そのまま便所から出て空へ浮き上がっていった。
家族のために呪われた祖母から目をそらし、父は今日もお札だらけの押入の中で一人ビールを呑んでいる。
行き先の湖の名を告げてタクシーの座席にもたれると、運転手が陽気な声で「お客さんも自殺ですかぁ?」と尋ねてくる。顔を見ると、運転手には白目がなかった。「見ててもいいですかぁ?」
母が笑顔で「早く飲みなさい」と勧めてくる濁った味噌汁の底から、ごぼごぼとあぶくが吹き出している。ぼくはそっと母を見る。「ほら、早くしないと、死んじゃうわよ」
耳が地面を這っている!と驚いたら、実は蟻が耳を運んでいるのだった。おお、がんばれよ。
夜、一枚の写真を手に月の見える丘へ向かう。月光を浴びせると浮かび上がってくる、大切な友だちの姿を見るために。
ちょっとあんた、今朝はおばあちゃんの触手が湿ってるから、雨具持っていきな。
今夜は額に「2」の焼き印をされた狼がうろついているので、次男次女は絶対に家から出してはいけない。
昨日、夜空を見上げていた皆さん。すみませんでした。流れ星をはたき落としたのは、うちの猫です。
ぼくの家では、毎年正月には、ひいおじいちゃんの遺影を踏まないと、お年玉もおせち料理ももらえない決まりになっている。
焼けただれた草原の真ん中に置かれた、シマウマの全てを記録したコンピューターがスリープから復帰すると同時に、枯れ木の木陰に置かれた、ライオンの全てを記録したコンピューターが静かに唸り出し、今日もネットワーク上で激しい狩りが始まる。
夜の墓場から、喪服の女が出てきて、何かボリボリとかたいものを噛み砕いている口元を手で隠しながら、闇の中に消えていく。
「効能」の立て札に「死」と書かれたその温泉は、いつも黒い何かがぽつぽつと浸かっている。
図書館でかくれんぼをしているが、早く見つけてもらわないと鬼ヶ島に着いちゃう。
コーン、ココン。コーン、コココン。と楽しそうな音が裏山から聞こえてくるが、藁人形のおばさん、今日はいいことでもあったのだろうか。
虹色の目玉を持つカニを水族館に仕入れた次の日から、職員たちが次々と手をチョキにして横歩きで行動し始めた。
やっぱり肉親じゃないといまいち盛り上がらないから、お前の母ちゃんの死体、明日返すわ。
「あいつは元気かな」祖父は時々押入の奥から、あちこちに歯形のついた宇宙服を取り出して、夜空を眺めている。
この家はな。よく見ると外壁に血管が浮き出てるだろ。この血管を一本一本切っていけば。後は勝手に崩れるから。返り血にだけ注意して。作業してくれ。
今日、離頭届が受理された。明日から私は、心だけで生きていく。
顕微鏡の倍率を上げていくと、「たすけて」と動く口が見えてきた。
初恋の人が美味しかった。
明日の朝の献立から目玉焼きが消され、集中治療室に一個の卵が運び込まれる。
猫を撫でる。ニャーと鳴く。今日も猫はニャーと鳴く。ああいう機械ができて、あれだけ大規模なアンケートをとっても、結局みんなやっぱり猫にはニャーと鳴いてほしいものなんだなぁ、としみじみ思う。
青空の絵のページが開かれた画集の前に、遺書と靴が並べて置かれている。
いつの間にか我が家の壁に這っていたツタを追っていくと、先端に爪が生えていた。
幼少時代からの習慣がいまだに抜けず、アイスキャンディーを食べていて当たり棒が出るたびに、ガキ大将だった××君の墓前にそれを供えに行ってしまう。
実家の仏間の天井の、人の顔に見える木目。その「目」にあたる部分から、ぽたぽた滴が垂れている。舐めるとしょっぱい。雨漏りではない。やだなぁ、また誰か亡くなるのか。