車検を受けたら、カーナビを心療内科に診てもらった方がいい、と言われた。
息子が生まれたばかりの我が家に、知らない老人がやってきて、「人間に生まれ変わりましておめでとうございます」と分厚い祝儀袋を差し出す。
夜中の墓地から爪を切る音が聞こえてくる。
のれんに「できたて」と書かれている金魚すくいの屋台の店先で、店主が金魚の魂を手でこねている。
いつも右手に包丁を持っている彼は、私と歩く時、私を必ず左手側にしてくれる。
疲れて帰宅すると、郵便受けに、元妻に引き取られた息子が描いたらしい俺の似顔絵がぐしゃぐしゃに突っ込まれている。
夜中のアパートの、歯ぎしりの音が聞こえてくる部屋のドアの前に、歯を抜く器具を持った老人が立っている。
交番に、塩を持ったおじさんがやってきて、「ナメクジの落とし物ありませんでしたか」と警官に尋ねる。
その幼い少年は毎日、総理大臣宛に、「あたまがよくなりますように」と書いた葉書を送っている。
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前を走る古紙回収の軽トラの荷台から、「遺書」と書かれた封筒が落ちた。
僕の初めての放火の記念にお母さんが作ってくれたケーキの、炎を表現しているイチゴが美味しい。
地球があった空間に今は、幼稚園のみんなで描いた地球の絵が浮かんでいる。
そのご婦人は、喫茶店で、膝の上の骨壷にブラックコーヒーを一滴垂らした後、くすくす笑って、そのコーヒーに砂糖を入れた。
母の墓石には、墓参りに来た人の笑顔を感知してシャッターを切るカメラが埋め込まれている。
火葬場のゲームコーナーにある格闘ゲームは、炎を操るキャラクターが使えない。
不幸せに効く薬が売り切れたのを見て、薬局の店主は幸せな気持ちになった。
墓石にとまっていたトンボに向かって指を回していた少年が、トンボが飛び去った後も一点を見つめて指を回し続けている。
千回目のお色直しの後、花嫁は自身の死体を背負って現れた。
魚の骨の収集家のおじさんが、いつも骨を貰いに行く寿司屋の奥さんを好きになってしまい、ある日そのおじさんは、一番綺麗な骨だけを持って失踪した。
離婚届をくわえて走り回る飼い犬を、妻だけが追いかけていた。
貧乏な家の子が香典代わりに持ってきた蛍が、娘の遺体の胸の上で光っている。
家電量販店の性格矯正機売り場の前で、年老いた母親と中年の息子が大げんかしている。
電車に、湯気を噴き出すやかんを持ったおじさんが入ってきて、痴漢しそうな人は手を出してください、と叫ぶ。
あのおじさんはいつも、首吊り縄でパチンコの場所取りをしている。
声を失った小鳥が、鳥かごの中から、主人の机の上にある羽根ペンをじっと見つめている。
帰宅して「ただいま」と言ったが反応が無いので、骨壷の蓋を開けて中にもう一度「ただいま」と言う。
空港に張られた「立入禁止」のロープの向こうの地面で、飛行機雲がのたうち回っている。
母の遺書に「蝶に生まれ変わります」と書かれていたので、もう庭に花は植えない。
誘蛾灯の掃除をしていたら、蛾たちの死骸の中に一つ、折り紙で作られた蝶が入っていた。